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「思いもよらないものを二つ接続させる」という外れ値的発想 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.773

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2023.9.18 Vol.773 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 「思いもよらないものを二つ接続させる」という外れ値的発想 〜〜〜SNS時代の「日本語の作文技術」について考える(第7回) 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 「思いもよらないものを二つ接続させる」という外れ値的発想 〜〜〜SNS時代の「日本語の作文技術」について考える(第7回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ AI時代にも生き残る文章とはどのようなものか。それはAIにも書けるような優等生的、中央値的な文章ではなく、外れ値であるとわたしは考えています。そして、ただ外れ値であるだけでもいけない。それは単なる「極端な意見」でしかありません。外れ値だけれども、読んだ人に「うーむ」と思わせる説得力を持たせる必要があります。 この「説得力のある外れ値」を、どのようにして生み出すのか。さまざまな方法があると思いますが、わたしは「思いもよらないものを二つ接続させる」という方法を提案しています。 前回に続いて、わたしの過去の原稿を題材にして解説していきたいと思います。数年前にとある紙メディアに寄稿した「都市はコンピューターではない。インターネットだ」という原稿です。  都市をコンピューターになぞらえる考え方は昔から非常に多い。パソコンを自作した経験のある人ならすぐに理解できると思うが、コンピューターはCPUやメモリ、ストレージなど明確に役割分担されたいくつかの部品から構成されている。  同じように、都市にも公共施設や道路、上下水道、公園などさまざまな機能があり、これらをうまく配置し最適化することが都市を効率化することになるというのが、都市コンピューター論の考え方であり、近年よく話題にのぼる「スマートシティ」もこの考えに沿っている。たとえばグーグルの関連会社であるサイドウォーク・ラボがカナダ・トロントでのスマートシティ計画を実際に行ったケースや、最近だとトヨタ自動車が富士山麓に建設しようとしているウーブン・シティもスマートシティのひとつである。  こうした動きに対して、米ニュースクール大教授で人類学者のシャノン・マターンが最近「都市はコンピューターではない」(未邦訳)という本で批判している。都市をコンピューターになぞらえるのは、危険な発想だというのである。そもそも都市の意味は、そのように役割分担された機能の集積ではないし、住民のプライバシーも含めあらゆるデータを集約して制御するという方向性もあやういというのである。  背景には、近年アメリカで強まっているフェイスブックやグーグルなどビッグテック企業への批判がある。個人のあらゆるデータを集積させてビジネスを行う手法は「監視資本主義」とも呼ばれ、社会問題化している。  実際、トロントでのグーグルのスマートシティ計画は、集められるデータの扱いに対する住民の不信感が大きくなり、頓挫する結末に終わっている。  では、都市の良き未来像とはどのようなものなのだろうか。スマートシティではないのだとしたら、われわれはどのようなビジョンを描けばいいのだろうか。  私は、都市のあるべき姿はインターネットのようなものだと考えている。ネットは玉石混淆で乱雑で、中には目にしたくないような不潔で薄汚いものや、犯罪や不正行為の温床もある。しかしいっぽうで、そういう泥水のすそ野からはさまざまな才能が登場し、それらの才能がさまざまな場で交流したり、衝突したりして、また新たな才能や作品を出現させている。混沌から新しい文化や産業やイノベーションが生まれてきているのだ。  建築家の故黒川紀章氏もかつて、このような都市の未来像を描いていた。黒川氏はもうすぐ解体される東京・汐留の中銀カプセルタワーホテルなどで知られ、大阪に最初にできたカプセルホテルのアイデアを発案したことでも有名。彼は未来の社会では、人びとが住まいのカプセルごと移動することによって、新たな移動社会になっていくというビジョンを提示していた。黒川氏はこう書いている。 「『個』が移動し、出会い、接触することで、異質な個性と価値基準が衝突し、あるいは影響を受けながら、(中略)異質なものや敵対するものを取り込む柔軟性、機能を固定させないタイム・シェアリングの発送、旅の思想、混沌とした存在や中間領域のあいまいさをすくいあげていくことである」(著書『ノマドの時代』より)  まさにこれが、コンピューターではない理想的な都市のビジョンではないだろうか。 この原稿でぶつけている「思いもよらない二つのもの」は、インターネットと建築家の黒川紀章さんです。黒川さんは1934年生まれの建築家。日本で始めてカプセルホテルを設計したことや、しばらく前に惜しくも解体された東京・汐留の中銀カプセルタワービルで有名です。亡くなられたのは2007年なのでインターネットは当然ご存じだったとは思いますが、ウェブ2.0の盛り上がりやそれ以降のSNSの隆盛、ビッグテックの台頭などは黒川さんの没後の潮流です。そして自動運転やメタバースが、2020年代に実現に踏み出したことも。 しかし黒川さんは1960年代から80年代にかけて、いずれ移動の時代がやってくることを予言していました。1969年に『ホモ・モーベンス』(中公新書)、さらにその20年後の1989年には『新遊牧騎馬民族 ノマドの時代』という、そのものずばりのタイトルの書籍を刊行しているのです。 『ホモ・モーベンス』が書かれたのは、高度経済成長時代。東名高速道路が開通し、モータリゼーションがやってきて、多くの人たちが自家用車で移動するようになりました。さらには東海道新幹線の開通や航空便の普及によって、ますます人々は日本国内を移動するようになっていきます。それまで、旅行というのは人生の一大事だったのが、みんなが手軽に社員旅行や家族旅行に出かけるようになったのも、この時代のことです。 こうした光景を見て、黒川さんは「動くということが、人生の目的になっていくような新しい人間が生まれてきている」と感じ、「動民」という意味でホモ・モーベンスという言葉をつくったのです。 彼はこんな未来を夢想していました。人々はもう土地や大邸宅のような不動産を欲しなくなり、自分が求めるさまざまな価値を探して、より自由に動ける手段と機会を持つことに生き甲斐を感じるようになるのではないか。そうした人たちは社会の中でも、あるいは自分のこころの内面でも、あらゆる古くさい考え方や旧態依然とした体制に反抗して、つねに新しい未来に向かって「動こう」としていくのではないか――。

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