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【Vol.500】冷泉彰彦のプリンストン通信『500号記念、同時代考察特集』

冷泉彰彦のプリンストン通信
ドリル優子の問題は逆流マネー  小渕優子氏の選対委員長就任が話題になっています。小渕氏については、 2014年に関連する政治団体の政治資金収支報告書に虚偽の記載が発覚し ました。その際に、東京地検特捜部による捜索が入る前に事務所のPCのハ ードディスクにドリルで穴を開けて、廃棄したのは有名な話です。このエピ ソードを受けて、同氏は「ドリル優子」というニックネームをつけられて、 現在に至っています。  この事件の顛末として、小渕氏は経済産業大臣をクビになり、元秘書は有 罪判決を受けました。ですが、大切なのは 「ドリルで消したこと」 ではありません。そうではなくて、 「ドリルで消さなければいけないような問題」 があったのが問題なのです。  ドリルで消さねばならなかった問題とは何だったのか、それは、90年代 に様々な紆余曲折を経て成立した「小選挙区比例代表制による政治改革」が 踏みにじられたということです。もっと言えば、政治改革が想定した、政治 とカネの問題におけるカネの流れが逆流しているのです。  まず、政治改革の第一の狙いは、それまでの中選挙区制における「自民党 候補同士の熾烈な選挙戦」が、多額のカネを必要としていたわけですが、こ れを断ち切ろうとしたわけです。具体的には、定数1の小選挙区を設定すれ ば保守同士の戦いはなくなり、政策本位の選挙戦になるというのが制度設計 でした。  中選挙区制の時代には、例えば80年代に岡山に住んでいた私が聞いた話 では、倉敷とか総社といったあたりでは、橋本龍太郎と加藤六月が熾烈な選 挙戦をしていて、陣営は「今日はこっちは天丼、こっちはカツカレー」など と有権者を接待して買収していました。それこそ、カネが無限にかかるよう な話だったのです。  小渕氏の場合も、お父様の恵三氏の場合は、中選挙区で中曽根康弘、福田 赳夫を常に厳しい選挙戦を闘っていたわけです。そんな中で、有権者をまと めるための「観劇ツアー」などが常態化していたのでしょう。明治座に昼食、 お土産、往復バス付きで招待する、会費は格安で差額は買収という方法です。  問題は、小選挙区制度になったら、この「観劇ツアー」は要らなくなった わけです。それこそ、恵三氏から承継した小渕優子氏の選挙区は、無風区と 言われて常に得票率は70%前後となっていました。野党は対立候補を立て るのから逃亡して、せいぜい共産党の泡沫候補が出るだけで、現在に至って います。ですから小渕優子氏は将来を嘱望された有力議員として全国で応援 演説をする立場であり、地元では選挙運動をしないで良かったのです。  にもかかわらず有権者は「格安観劇ツアー」をせびり続けた、これは買収 ではありません。むしろ反対です。タカリであり、悪質な賄賂の要求です。 全く理不尽なカネであり、その源泉が実は選挙が公営化されたために税金か ら(一部かもしれませんが)出ていたわけで、観劇に行った人は全員が収監 されて公民権停止になっていいレベルの犯罪だと思います。  今回文春がすっぱ抜いた、カネがファミリー企業に流れていたという問題 も同様です。(続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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