第282号(2023年9月29日号)
『最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術』
はじめに:
いつもメルマガをお読みいただきありがとうございます。
さて、今週号の内容ですが、まず【1】の
『無敵の交渉・コミュニケーション術』のコーナーでは、
今週も引き続き【相手の超強気な交渉戦略の破り方】についてお話しします。
Hardball戦略の特徴には、
【嘘】
【誇張】
【脅し】
などが存在し、この戦略を援用する人は
『皆やっているからオアイコ』
『交渉において勝てばいいので、嘘や方便を使うことはたいしたことではない』
『交渉は最初に相手をガツンと叩いて脅かしておくのが鉄則』と信じ切り、
実際には交渉において得ることが出来たはずの利益をみすみすフイにしていることが多いことに気づいていません。
しかし、このような人を相手にする側としては、
売り言葉に買い言葉のように、売られたケンカは買いたくなったり、イラッとしたりして、冷静さを失いがちです。
相手のペース、そして嘘や方便、脅しに乗らないために取ることができる方法として
【Hardest questionsに対応するように事前に相手の出方を予測しておき、自身の対応方針を準備しておくこと】
を先週号ではお話ししました。
今週号は【すぐに反応せず、相手の戦術の背後にある真意を探れ(Diagnose the tactic)】についてお話しします。
その注目の内容は、本編をお楽しみに♪
次に【2―国際情勢の裏側】ですが、今週もいろいろなことが起きた一週間でした。
一つ目は【IAEA年次総会における日中間の非難合戦】です。
今週ウィーンで開催されているIAEA年次総会において、
中国の代表は日本政府が行う東京電力福島第一原子力発電所のアルペン処理水の海洋放出に対する厳しい非難を行い、
それに高市大臣をはじめ、引原大使も応戦するという状況が続けられています。
中国政府は日本の海洋放出が科学的根拠に基づかない“危険なもの”であり、
地球環境に対する不可逆的な悪影響を与えるとして激しく非難していますが、
中国の対日非難に追随する国は、IAEA総会ではなく、中国の孤立が深まっています。
(注:国連総会の一般討論演説ではソロモン諸島の首相が日本非難を行いました。)
明らかに不利な状況に置かれているのに、どうして中国政府は日本非難に徹するのでしょうか?
非難の内容を額面通りに捉える国はなく、
考えうる理由はすべて中国政府が直面している国内における政府批判をかわす狙いだと言えます。
内容には不動産業界の大スキャンダルと大スランプに対する非難(住宅問題の深刻化と債務不履行)、
若年層の失業率の深刻化(分析結果にはすでに18歳から30歳の失業率は5割に近づいているという数値もあります)に加え、
中国の原発からの処理水の海洋放出および河川への放出におけるトリチウム値が
福島第一原発からのアルペン処理水のレベルの5から10倍の値になり、中国全体で多くの健康被害が出ており、
すでに国内で大問題化しているという情報もあります。ゆえにウィーンに赴いている原子力院の次席としては、
自らの責任問題を回避するために、
マントラのように日本非難を繰り返すほかないという状況に追い込まれているように見えます。
とはいえ、この問題以外の国際フロントでは、中国政府は着実に勢力圏を広めており、
その広がりは非欧米諸国(アジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカ諸国)に広がっていますので、
外交的に相互支援を約束していることもあり、今後、日本にとってもちょっと侮れない問題だと考えます。
2つめは【ナゴルノカラバフ紛争が開く地域紛争と新たな危機の扉】についてです。
9月19日にアゼルバイジャン軍がナゴルノカラバフのアルメニア軍事勢力に対する軍事行動を実施し、
一夜のうちにアルメニア勢力の武装解除を引き出して、全面的に勝利し、駐留するロシア軍の平和維持軍の仲介を得て、
停戦が成り立ちました。
その後、21日から断続的にナゴルノカラバフの今後についての話し合いがもたれていますが、
アルメニア国内でパシニャン首相の弱腰を非難するデモが多発・激化し、国内政治情勢がひっ迫するにつれ、
パシニャン首相の言動も尖ってきて、
ついには『ロシア軍の平和維持軍は何もしなかった』とロシア政府非難にまで発展したことで、
今度はロシアが猛烈な反発を行っています。
ロシアとアルメニアは1988年以降軍事同盟を結んでいる間柄ではありますが、ロシア政府側は一方的に軍事同盟を破棄し、
最近、欧米への傾倒を強めるアルメニア切りを行おうとしています。
このことで対欧州・対中東欧への天然ガスパイプラインが通るナゴルノカラバフにおける緊張が高まっており、
それが脱ロシア依存を進めようとする中東欧の首を絞める方向に、期せずして発展しそうな気配です。
すでに重大なエネルギー安全保障上の懸念を抱える中東欧諸国に大きなプレッシャーがかかってきており、
ウクライナ情勢に加えて、さらなる混乱と悲劇が重なる予感がしています。
3つ目は【ロシア・ウクライナ戦争の行方】です。
このところウクライナ南部、特にクリミア半島奪還を第一目標に置き、ロシアの補給路を寸断し、
クリミア半島とその他の支配地域、そしてロシア本土を切り離す作戦に出ているウクライナ軍ですが、
この狙いは【一日も早くできるだけ有利な形で停戦に持ち込むための条件を揃えること】と思われます。
クリミア半島の奪還はかなり困難な目標であると考えますが、当のロシア側からも、はっきりとは言えないレベルですが、
少しずつ“停戦に向けた動き・ネタ”が出始めているように感じます。
戦闘は激化しつつも、戦況は一進一退を続け、長期化が見込まれる中、
欧米からの支援がいつまで続くかわからないウクライナ側の焦りと、
戦闘力的には大幅にウクライナを凌駕すると思われるロシアも、強気の姿勢を保ちつつ、
長期化を狙う戦略に移ってきている半面、戦争継続によるロシアのcredibilityとレガシーの損失を恐れ、
一旦態勢を立て直すべく、停戦の可能性を匂わす言動が出始めています。
【2-国際情勢の裏側】では、
【最後のチャンス?!‐ロシア・ウクライナが探る停戦に向けた駆け引き】についてお話しします。
今回のメルマガも長くなりましたが、どうぞ最後までお付き合いくださいね。
それでは今週号、スタートします★
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