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週刊Life is beautiful 2023年10月3日号: Instacart、Regenokine

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Instacart 少し前にARMのIPOの話を書きましたが、ほぼ同時期に、私が以前から注目していた会社が上場しました。Instacartです。 Instacartは、ひとことで言えば「Uber Eatの生鮮食料品版」のようなサービスです。専用のアプリ(もしくはWebサイト)を使って、特定の小売店(生鮮食料品を売っているスーパーが中心ですが、薬局やDIYストアなども含みます)で買いたいものを指定すると、ショッパーと呼ばれる代理人が購入した上で自宅までで届けてくれるというサービスです。 数年前からあるサービスで、私は当初は懐疑的でしたが、長男一家が便利に使っているのを知り、私自身もハワイの家でCostcoからの買い物で試したところ、その便利さに驚いたことを良く覚えています。サービス料とチップが必要ですが、Costcoまでの往復は車で30分かかるし、時間によっては渋滞に巻き込まれるので、悪くないサービスだと思いました。 その後使い続けていないのは、私の妻が「生鮮食料品は自分の目で見て買いたい」タイプなのが一番の理由で、私が一人暮らしだったら、会員になって使い続けているだろうと思います。10月の中頃に、2週間ほどハワイで一人で暮らす時期があるので、再び使ってみようと思います。 最大のライバルは、もちろん、Amazonですが、生鮮食料品を届けてくれる Amazon Fresh のサービスはまだ全国展開されていないし、まだまだこれからのマーケットです。また、生鮮食料品以外の品に関しては、玉石混交であり、Costcoのような「信頼できる小売店」から購入したいと考える消費者は少なくありません(私もその一人です。Costcoが売る商品がなぜ信頼できるに関しては、別途丁寧に書いても良いと考えています)。 つまり、Instacartは、「Amazonではなく、自分が気に入った小売店から購入したいけど、店に行かずにオンライン・ショッピングしたい」という人向けのサービスとも言えるのです。現時点で、生鮮食料品をオンラインで購入する人は、全体の12%だそうですが、将来はそれが30%ぐらいに増えるだろうと予想されています。 IPOは、一株あたり30ドル、株価総額$8.3billionでの売り出しとなりましたが、これは、2021年の調達時(Instacart Announces $265 Million in New Funding Led By Existing Investor)の株価総額$39billionと比較して、大幅な下落(ダウンラウンド)となっています。 ダウンラウンドになってしまった理由はいくつかあります。2021年当時は、新型コロナの影響もあり、人々が人混みに行くのを避けていたため、Instacartのサービスが大幅に伸びた時期でもありました。また、連邦銀行による量的緩和(Quantitative Easing)により余ったお金が行き先を求めていたこともあり、ベンチャー市場がバブル状態にありました。 しかし、今はインフレ対策として金融引き締めが行われているため、銀行預金の金利が5%近くにまで上昇しているため、ベンチャー投資や株式市場に流れ込むお金の総量が減っており、Instacartに限らず、IPOに適した時期ではないのです。 そんな状況にも関わらずInstacartが上場に踏み切った理由に関して、CEOのFidji Simo氏は、「社員のため」と発言していますが、これは本当だと思います。今の状況のままで、VCからお金を集めようとすると、当然ダウンラウンドになりますが、その場合、前回、高い価格で販売した優先株に与えた優先条件の結果、大量の優先株が無償で投資家たちに発行されることになり、普通株を持った創業者や、ストックオプションを持っている社員たちの持分が(希薄化により)大きく毀損してしまうのです。 具体的な優先条件はケースバイケースで異なりますが、株価総額$39billionで優先株を購入していた株主に対して、「次のラウンドがダウンラウンドになった場合には、今回の投資がその価格で行われたとみなして、追加の株を渡します」という契約が結ばれていたとします。$39billionの株価総額で集めた、$256millionは、その価格ではわずか0.66%ですが、$8.3billionでダウンラウンドを行った際には、それが3.1%に補正されてしまうのです。 上場した際には、すべての優先株が自動的に一般化株に変換されてしまうので、($39billionの株価総額で投資した)投資家は大きな含み損(約80%の損)を抱えることになりますが、普通株やストックオプションを持つ創業者・従業員の持分が希薄化されることはないのです。 社員の中には、株価総額が高い時期にストックオプションをもらった社員もおり、そのストックオプションには価値がなくなってしまっていますが、そんな場合には、会社側が新たなストックオプションを低い行使価格で発行してあげれば、救済が可能で、Simo氏もそれを行うと宣言しています。 ちなみに、これだけでもInstacartのIPOは注目に値すると思いますが、さらに面白いのは、Instacartの今後です。 生鮮食料品をオンライン・ショッピングそのものは、今後30%まで伸びたとしても頭打ちになることは明らかです。一方、小売店のDX(デジタル・トランスフォーメーション)はまだ始まったばかりです。この分野では、Amazon Goが最先端を走っているとは言え、他の小売店も何もしないわけがなく、そのDXを担う役割をInstacartが果たすことが出来れば、とても大きな市場を掴むことが可能です。 この分野には、元気の良いベンチャー企業もたくさんあるので、簡単ではありませんが、「株式を使った買収」という武器を手に入れたInstacartが、ベンチャー投資が冷え込んだ今のタイミングを利用して、どう動くかに注目したいと思います。 ちなみに、Instacartの株価は、上場直後に瞬間風速的に$42.95まで吹き上げましたが、すぐに戻って、今は$30付近をうろうろとしています。短期的に大きく上がる株だとは思いませんが、「生鮮食料品のDX株」として中長期に保有するのは悪くないと思い、少しばかり購入してみました。 Regenokine 米国では、Knee Replacement(膝の関節を人工関節に置き換えること)が幅広く行われており、私の知り合いでも数人、行った人がいます。American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS)によると、現時点で年間80万件ほど行われており、2030年には年間350万件に上ると予想されています。

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