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今昔物語1

ドクター畑地の診察室
ドクター畑地の診察室212.2023.10.8. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信! https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ***************************** 今昔物語 1  一昔前の話です。昔と言ってもつい10年程前のことで、それほど昔ではありません。    肺癌は他の癌と比べて脳転移が多いことが知られています。そのため、進行肺癌の患者さんは、問題がない限り、造影MRIを撮影して脳転移のチェックを行います。(余談になりますが、脳転移の検出にはCTよりMRIの方が有用で、特に小さい脳転移は造影剤使用して、MRIを撮影しないとわからないため、腎臓の機能に問題ない限り造影MRIを行います。)脳転移が見つかった時はどうしたか、ケースバイケースで対応は変わってきますが、多くの場合、頭全体に放射線を照射する全脳照射が行われていました。  さて、この全脳照射ですが、照射すると頭に浮腫が出現するため、ステロイドを使用しながら行います。ステロイドにより、脳浮腫に伴う悪心、頭痛などを抑えるわけです。急性期を乗り越えると、しばらくは問題ないわけですが、照射後1年位経過すると、患者さんと話す時、違和感を感じるようになります。一概には言えませんが、患者さんの受け答えが少しゆっくりしたペースになるわけです。ざっくりお話しすると、全脳照射により、10歳年をとったような感覚になるわけです。例えば、60代の肺癌患者さんに全脳照射をすると、1年後位には70歳代(外見ではなく、受け答えに対する反応です)のような印象になりますし、高齢の方ですと、場合によっては認知症が出現することもありました。  ただ、その当時、脳転移がある多くの肺癌患者さんで一年後生存可能であった方はそれほど多くなかったため、あまり問題にはならなかった気がします。  ところが今はどうでしょう、多発性脳転移がある肺癌患者さんでも長期生存している患者さんは少なくありません。特に、EGFRやALKなど、ドライバー遺伝子変異陽性肺癌患者さんは、陰性の方に比べて脳転移を来す頻度は高いわけですが、そのような方は内服分子標的薬が奏功するため、かなり長期にわたって、元気でいることができます。(私の患者さんでも、10年前、多発性脳転移で寝たきり状態だった肺癌患者さんが、投薬により今も元気で通院されている方もいます。)そのような状況では、一年後にADLが落ちてしまう可能性が高い全脳照射はできるだけしないように治療し、全脳照射は最終手段になってきたわけです。  転移の数が少なく、転移腫瘍の大きさが小さければ、全脳照射をせずにガンマナイフ、サイバーナイフと呼ばれる一部分のみに放射線を照射することもありますし、分子標的薬が奏功する腫瘍は、薬物療法だけで治療することもあります。  昔は、予後が悪かった肺癌、今は予後が改善して、長期生存が望めるようになりました。生存するだけで必死だったわけですが、今はいかに生活の質を保ちながら、長生きしてもらうか、そのようなことを考えて治療していかなければいけないわけです。そのためには、頭にはできるだけ放射線を照射しないよう、治療していくわけです。  生活の質に気遣いながら治療するのは、肺癌だけではありません。他の病気でも言えることで、次回は喘息について述べてみたいと思います。 ***************************** ドクター畑地の診察室212.2023.10.8号 毎週日曜日お昼に配信予定です。 次号は2023.10.15.です。 お問合せ、感想などはコチラまで zm.magumagu@gmail.com 畑地 治 https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 https ://mie-matsu-kokyuki.mars.bindcloud.jp/ https://www.facebook.com/mch.respiratory.center/ 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ***************************** ★お知らせ★ 好評発売中『ドクター畑地の診察室』バックナンバー 1ヶ月分を220円で購入できます。気になった号がある方はぜひチェックしてみてください! ◆2023年09月

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