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週刊Life is beautiful 2023年10月24日号:TED AI San Francisco、新たな形のエンジニアリングの誕生

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん TED AI San Francisco 先週は、TEDの初のAIカンファレンス、TED AI San Franciscoに参加して来ました。私の長男(洋平)がスピーカーとして話すから、というのが1番の理由ですが、それ以外にも、普段から注目している、ANDREW NG、REID HOFFMAN、ILYA SUTSKEVER、CATHERINE WOODと素晴らしいスピーカーが揃っているので、喜んで参加したのです。 ちなみに、TEDは「Ideas worth spreading(広げる価値のあるアイデアたち)」をモットーにスタートした、カンファレンスで、参加費が$1,000超と高価なのにも関わらず、毎回売り切れになる、招待制のイベントです。私自身は、4年ほど前に、TEDx Sapporoというイベントに招待されて話したことが、ありますが、TEDxはTEDからライセンスを受けた団体が催すイベントで、TED本体が開催するイベントは格が違います。 私の長男が、そんな敷居の高いTEDに招待されたのは、BabyAGIというソフトウェアをオープンソース化して、これがAI業界で評判になったからですが、それに付いては、別途下に書きます。 スピーカーは36人いたので、全員について書くと長くなりますが、印象に残った人のスピーチについてのみ、コメントを書きます。ANDREW NG(AIの研究者・教育者): いかにも彼らしく、AI anxietyというテーマで、AIに対する人々の不安について分かりやすく解説してくれました。しかし、既にこの業界で働いている私にはあまり役にたつ話ではありませんでした。REID HOFFMAN(LinkedInの創設者): 対談形式、対談そのものは面白くありませんでしたが、最後に見せてくれたpiアプリは試す価値があると感じました。ILYA SUTSKEVER(OpenAIの創業者): 彼は素晴らしいAI研究者なので、とても尊敬していますが、人々のAGIに対する不安について語ったのは失敗でした。知能とは何か、AGIをどう定義するか、あたりを彼なりに深掘りした方が、ずっと良い(=彼にしか出来ない)スピーチになったと思います。CATHERINE WOOD(Ark InvestのCEO): いつもの彼女らしく、とても楽観的な未来を語ってくれました。彼女の話を既に何度も聞いている私には、新鮮さが欠けました。SHANE LEGG(DeepMindの創業者): 対談形式でしたが、とても分かりやすく説得力のある話し方でした。AGI問題に関しては、「どうやって動いているのかをちゃんと理解しない限り解決できない」と研究者・技術者らしいコメントで、とても説得力がありました。残念なことに、インタビュアーが「あなたにも理解できていないのですか!」とツッコまなかったのだ、少し残念です。STEPHEN WOLFRAM(Wolfram Research): 彼が作ったデータのvisualizationツールを見せてくれました。観客は喜んでいた様ですが、私には数学者の独りよがりにしか見えず、全く理解できませんでした。思いっきり理科系頭の私に理解できないすごく難しい話をしているはずなのに、普通の人たちが褒めている姿は、まるで「裸の王様」の一シーン見ているように感じました(読者の方で、彼の凄さを理解している人がいたら、是非とも教えてください)。LIV BOEREE(ポーカーチャンピオン): 何の話をするかと思ったら、ゲーム理論の深い話で、とても感心しました。参加者がルールに従って全力を尽くすと全員が損するゲームのことを「moloch trap」と名付けた上で、AGIに向けた開発競争はまさにその罠にハマっていることを分かりやすく指摘してくれました。「don't hate players, change the rule(プレーヤーを非難せず、ルールを変更しろ)」は素晴らしいメッセージですが、AGIに関して、具体的にどうルールを変更すれば良いのかの提案がなかったのが残念です。HARRISON CHASE(LangChainの創業者・CEO): 一般人向けのAIアプリの解説をしましたが、それにしては難しすぎたと思います。SARAH GUO(Conviction AIの創業者・投資家): 投資先のAIベンチャーの紹介・宣伝ばかりで、TEDスピーチ向けではないと思いましたが、彼女が使った、MVQ(Minimum Viable Quality)という言葉はとても良いと思いました。LLMからの返答は安定しないので、何らかの工夫により「最低限の品質」を保証する仕組みを作ってからリリースしろ、という話です。ROB TOEWS(Radical Ventures、投資家): AIの研究・開発に欠かすことに出来ないAIチップが、すべてTSMCによって作られていることに関する警告でした。中国が5から10年以内に台湾に侵攻する可能性が非常に高いと言われていますが、その時には、TSMCからのAIチップの供給が止まる、という事実から目を背けていかないと指摘しました。STACY SPIKES(MoviepassのCEO): AIを作って映像が簡単に作れる様になったことについて、「アーティストから仕事を奪うのはAIではなく、AIを使いこなすアーティストだ」と、説明してくれました。この言葉はとてもわかりやすいので、これから使わせてもらおうと思います。 ちなみに、息子の洋平のスピーチは、第三者として評価するのは難しいのですが、AGIについての一般論を言うよりはずっと良かったとは思いますが、あえて哲学的・宗教的なことを言って注目を集めようとした試みが、果たして正しかったのかどうかは若干疑問に思えました。 新たな形のエンジニアリングの誕生 ChatGPTがリリースされ、ChatGPTにコードが書けることが判明して以来、「これからはAIがコードを書く時代になる」「エンジニアの仕事がなくなる」という声が聞こえる様になりましたが、私は「そんなことはなかろう」と感じて来ました。 生成されたコードは使えるものありますが、使えないコードもあります。小規模なコードなら書けますが、大規模な複雑なコードは無理です。馴染みのない開発環境でAPIの使い方を学ぶには良いですが、AIに書かせたコードだけでアプリケーションを作るなど無理だろうと思っていました。 そう考えていた私を驚かせたのは、私の長男の洋平です。 彼は、私のような「理科系頭脳」を持ちながらも、大学では経済を学び、今はベンチャー・キャピタリスト(ベンチャー企業への投資家)をしています。高校の時に、TIのGraphics Caliculatorで行うプログラミングの勉強は授業で受けた様ですが、それ以上のことは学ばずに社会人になりました。 そんな彼が、4月にBabyAGIというLLMを活用したアプリをオープンソースとして発表し、開発者たちの間で評判になったのです(スターの数は現時点で17,500個)。BabyAGIは、それぞれ異なるプロンプトを与えられた三つのAIエージェントが交互に会話をすることにより、大きな問題(例えば地球温暖化対策)を解決するための道筋を見つける、という中々面白いアプリです。 同時期に発表された、AutoGPTと並び、「AIエージェントに仕事をさせる」という考え方のパイオニアとしてAI業界で注目を浴びることになり、多くの記事や論文から参照されるまでになりました。ごく最近目にした、アナリストによるAIレポートにも、BabyAGIがAUtoGPTと並んで紹介されていました。 彼のコードを最初に見たときは、「なんだこれは?」と思いました。ChatGPTに生成させたコードを貼り合わせただけの「ハリボテ」のコードだったからです。 しかし、オープンソースとして評判になった結果、数多くのエンジニアが参加して、彼のコードを進化させ、その後は数多くの派生プロジェクトが創られるまでに発展し、今は洋平の手を離れて、独自の進化を遂げています。 私はこれを見て、「たまたま運が良かったのだろう」ぐらいに感じていました。洋平は、ソフトウェア・エンジニアとしての教育は受けていませんが、私と同じ理科系頭は持っているので、ChatGPTの助けを借りて彼のアイデアを具現化し、それがたまたま評判になっただけのことだろうと思ったのです。 しかし、9月になって、彼はもう一つのヒットを飛ばしました。InstaGraphです。これは、LLMを活用して、言葉からKnowledge Graphを作るツールです。 Knowledge Graphは、複数のもの(人物・会社・物・事柄など)の相互関係を「ノードとエッジから構成されるグラフ」にしたもののことで、さまざまな「知識」をデータとして整理したもの、と言えます。

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