メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

vol.201:トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
  • 2023/11/06
    • シェアする
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 201 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。 今回は、ラッキンコーヒーのマーケティングについてご紹介します。 ラッキンコーヒーは、今年2023年のQ2(4-6月期)に、売上高でスターバックス中国を抜きました。つい先日、両社ともにQ3の業績を公表しましたが、ラッキンが2期連続でスターバックスを上回り、その差が開きつつあります。現在でも、ラッキンは店舗拡大中で、独走状態に入るかもしれません。 ラッキンの特徴は、モバイルオーダーになります。WeChatのミニプログラムを開いて、注文をしておき決済までして、店舗で受け取るだけです。店舗は90%以上がピックアップ店で、座る場所は少数しかないため、多くの人がオフィスに持って帰ったり、公園などに行って飲みます。素晴らしい空間の中でコーヒーを楽しめるスターバックスとは真反対のコンセプトです。 しかし、店舗の出店コストは大きく下がるため、店舗拡大のスピードがあがり、なおかつその分のコストをコーヒーに投入することができるため、質の高いコーヒーを低額で提供することができています。ここがラッキンの強みです。 ラッキンのもうひとつの強みがマーケティングです。ラッキンは、「トラフィックプール」という考え方を採用しています。これは、顧客のアクセスを高頻度化させ、あたかもそこに留まっているかのようにするというものです。そして、顧客に新規の顧客を連れてくる仕掛けを用意し、ラッキンの用語で言う「核分裂」を起こさせます。これにより、トラフィックプールが拡大をし、ラッキンの売上が伸びているのです。 モバイルオーダーの仕組みやメリットについては、何度もご紹介をしてきましたので、今回は、このマーケティング手法についてご紹介をします。トラフィックプールとはどのようなものなのか、核分裂とは具体的にどのように起こすのかをご紹介します。 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 201 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼目次▼ トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方 小米物語その120 今週の「中華IT最新事情」 次号以降の予定 Q&Aコーナー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ トラフィックプールとは何か。 ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は、ラッキンコーヒーのマーケティングについてご紹介します。 「瑞幸珈琲」(ルイシン、Luckin)が、店舗数だけではなく、2023年Q2(自然年)の売上でもスターバックスを追い越したという話はみなさんすでにご存知だと思います。両社ともQ3(7-9月期)の業績発表がされたばかりですが、ラッキンは986.8百万ドル、スターバックス(中国)は840.6百万ドルと差が開きつつある状態です(後ほど売上推移のグラフをお見せいたします)。 このラッキンの創業者と創業チームが「庫迪」(クーディー、COTTI COFFEE)という新しいカフェチェーンを立ち上げ、中国内でも創業1年で5000店舗を突破し、日本でもすでに2店舗を展開するという素早い動きを示しています。東京の池袋西口(旧北口)と本郷に出店をしています。さすが、ラッキンの創業チームだけあって、オーダーモデルは非常によくできています。 まず、アプリからの注文ではモバイルオーダーとデリバリーが可能です。アプリは携帯電話番号だけでアカウントが登録でき、決済方法はApplePay、GooglePay、アリペイ、PayPalなどを選ぶだけです(クレジットカードも利用できますが、最初はカード番号を登録しなければなりません)。デリバリーは現在地にピンが立つので、公園などで受け取りたい時はそのまま注文することができます。自宅やオフィスではピンの情報でとりあえず注文をしておき、後から正確な住所を補完することが可能です。この辺りの「アプリを入れてからすぐにオーダーできる」簡単さを実現しているのは、非常に中国的です。 日本のアプリは、いまだにアカウント名とパスワード、さらには住所や年齢などまで入力をしないとアカウントがつくれず、ApplePayなどに対応しているサービスもまだ少ないため、クレジットカード番号を入力しなければなりません。使い始めるまでに疲れてしまい、途中で嫌になってしまいます。 これはクレジットカードがキャッシュレス決済の中心になっていることによる弊害です。クレジットカード番号を入力するため、流出事故を防ぐためにそれなりのセキュリティ対策を行わないと、事故が起きた時に事業者側の責任が問われます。そのため、パスワードや二要素認証を使い、なりすまし利用ができないようにしなければなりません。しかし、アリペイ、ApplePay、GooglePayのような外部の決済システムを利用すれば、決済のたびに決済側で顔認証や指紋認証などで本人確認をするため、アプリのセキュリティは簡素化できます。もし、悪人が他人の携帯電話番号で勝手に注文をしたとしても、決済ができないので事故になりません。 特に、モバイルオーダーを使うようになるのは、店舗に行ってみたらものすごく長い行列ができていて、さすがに並びたくないということがきっかけになることが多いのです。その時、店内のポスターなどでモバイルオーダーに誘導をし、なおかつ店内に無料WiFiがあれば、アプリをインストールしてくれる確率は非常に高くなります。この導線では、店舗内かその近辺で立ったままスマートフォンを操作することになりますから、登録内容を極力少なくして、すぐに使えるようにすることが必須なのです。 人混みの中で、クレジットカードを取り出して、その番号を入力するなどということはしたくありません。日本ではApplePayかGooglePayに対応することが必須です。性別や年齢、職業などというデータを取りたいのであれば、後で取ればいいのです。「情報を補完していただければコーヒー1杯無料クーポン進呈」などとプッシュすれば、多くのユーザーが喜んで入力しますし、リピートをさせるきっかけにもなります。 日本のサービスはこういう「ユーザーのシナリオ」のような部分で雑なものが多いように感じます(核心チームがアプリを設計するのではなく、開発会社に委託をしてしまうのが原因だと思います)。さすがクーディーは中国のチェーンだけあって、この辺りは賢く設計されています。

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • 550円 / 月(税込)
  • 毎週 月曜日