【デリバリーの巻】
「いいか、毎日地図を見てこのへんの道を把握しておけよ」
デリバリーの待機室には、配達区域の地図が拡大されて貼られていた。
今みたいにスマホで地図を見る時代ではなかったので、配達する家を見て覚えなければならないのである。
ピザが出来上がり、住所を見て地図で確認したら、頭の中の地図で現地まで向かって配達するのである。
お釣りが入っている金銭袋を肩からかけて、大体の目的を決め、そこから曲がる道などをイメージしてむかうのだが、みつおにとって慣れない土地での配達は難関だった。
「えーっと、このファミマを過ぎて2本目の道を左に曲がって3件目のアパートだな」
初めてのデリバリーはかなり緊張した。
方向音痴のみつおには、知らない土地で配達はかなりハードルが高かった。
万が一間違えたら元に戻るのも難しい。
何度も何度も道を確認し、メモに大体の地図を書いて出掛けた。
しかし、何度もそうしているうちにマネージャーに見つかってしまった。
「おい、お前いつまで地図見てんだよ、遅配になってクレームきたらお前責任とれるのか?
早く行けよ」
「あ、はいすみません」
怒られてテンパったおかげで完全に頭の地図が消えてしまった。
とりあえず逃げるようにバイクにまたがり、走らせたのだが
「あれ、どこに配達だっけ?」
直ぐに降りてピザの箱にある住所を確認した。
「あっしまった逆方向だった」
Uターンして店を通りすぎる。
心の中でだれにも見つかりませんようにと祈っていた。
落ち着いたところで記憶をたどる。
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