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【Vol.509】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本の対立軸と政界再編の可能性』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「中東問題、論点の混乱」  アメリカのTVはかなり露骨で、CNNはイスラエルのプロパガンダが9 0%ぐらい、NBCでも65%位は入っています。一方で、FOXニュース は「テロリスト殺害はやむを得ない」などブッシュ時代の保守レトリックが 多い反面、事実関係は一番情報量が多かったりします。  その点で、日本のメディアはさすがに中立という国是が浸透していること もあり情報量は非常にマトモです。現在は、NHKなどの報道は、アメリカ では難しい事実関係を確認する上でかなり助かっています。  そうなのですが、アメリカは勿論、日本の報道でも状況の全体構図は良く 伝わってこない感じがあります。その背景には論点の混乱があります。論点 が混乱しているので、情勢の全体が伝わりません。そこから、ハマスは人質 を取っていて悪質だ、あるいはイスラエルは病院や学校を攻撃して大量殺戮 をしている、といった一方に偏った感情的な反応しかできないことになるか らです。  まず、歴史的に、ホロコーストだけでなく、欧州全域(ソ連、ロシアも含 む)におけるユダヤ人差別があり、彼らが安住の地を求めたという歴史、そ の一方で英国の三枚舌外交によるパレスチナ問題の混乱があったという前提 は、何度も繰り返して確認すべきです。  一方で、エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンといった近隣諸国は、パ レスチナ人が難民化して自国に大量に移動することも、領土の一部を彼らに 使わせることにも、強硬に反対しています。彼らの非寛容、受け入れ能力の 欠如には彼らなりの現実と理屈はあるのですが、とりあえずそうした制約が あることは繰り返し伝えないと問題の全体像が伝わりません。  隣国としてパレスチナ人の立場の向上と安定にできること、しなくてはな らないことがあるはずなのに、そこは拒否しておいて、「アラブの大義」だ という「勝手な応援」だけはする、その結果として対立を煽り、対立をエス カレートさせるというのは無責任です。  サウジとイランの立場はもっと無責任です。サウジはイスラエルと協調し た理由があり、イランとの敵対をする理由もあり、けれども今回の事態を受 けて一緒にイスラエル非難をしているという二枚舌は、余りにも無責任です。  これとは別に、言葉の問題があります。まず、世界的に、アンチ・ユダヤ (深刻な人種差別でホロコーストにつながる文明への犯罪になります)と、 アンチ・イスラエル軍という政策の問題が混同されています。  同様に、人質作戦を仕掛け、今回のテロ犯罪の容疑者集団であるハマスの 軍事部門を批判することと、アンチ・パレスチナ、更にはアンチ・イスラム (これも深刻な人種差別でヘイトになります)が混同されています。  一番の問題は、敵と味方の論理が強く押し付けられる中で、経済の格差と 命の価値の格差という絶望的な倫理の崩壊が無視されているのは問題です。 世界中のメディアが無自覚に未整理な映像を垂れ流す中で、この倫理破綻が 蔓延しています。  その一方で、これまで非力な事務総長であったのは事実ですが、グテーレ ス国連事務総長と国連の現場は必死の仕事をしています。彼らに力と権威を 与えることが、問題解決の道筋になるのであれば、せめて日本は必死に支え るべきと思います。  とにかく、他にもあると思いますが、こうした原則論的な部分から確認し て行かないと、問題の出口は見えません。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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