池田清彦のやせ我慢日記
/ 2023年11月24日発行 /Vol.252
INDEX
【1】やせ我慢日記~『遺伝と平等』を読む~
【2】生物学もの知り帖~快感の予測が変化するとドーパミンの分泌パターンも変化する~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『『遺伝と平等』を読む』
『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』(新潮社)という最近翻訳された本を読んだ。著者はキャサリン・ペイジ・ハーデンという発達行動遺伝学者で、遺伝的な優劣の結果生じる不平等に関しての広範な論評である。
ヒトの様々な形質に、多少とも遺伝子の影響があることを否定することはできない。単一の遺伝子によって引き起こされる遺伝病はその典型例だ。例えばハンチントン病は中年以降に発症する優性の遺伝病で、4番染色体短腕上のHTT遺伝子の異常によって起こることが分かっている。この遺伝子にはシトシン、アデニン、グアニンという塩基配列のリピート(繰り返し)が見られるが、正常な人ではこのリピート数は6回~35回であるが、ハンチントン病の人では36回以上になり、リピート数が多いほど重症になる。
リピート数が多いと作られるたんぱく質(ハンチンチンたんぱく質)が長くなりすぎて、ニューロンの内部で断片に分かれて、様々なアミロイド構造(不溶性の繊維状凝集体)を作り、ハンチントン病特有の病変を引き起こすと考えられている。抑うつや怒りの症状、痙攣性の不随意運動、最後は喋ることも食べることも難しくなって死に至る。優性の遺伝病であるため、両親のどちらかがこの病気であれば(病原遺伝子を1つ持っていれば)発症確率は50%である(両親とも病原遺伝子を1つ持っている有病者であると発症確率は75%)。
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