■日本企業の「強み」とは何か
働き方改革のテーマは、長時間労働の是正から、ジョブ型の導入に
移行した。だが、メンバーシップ型かジョブ型かという二項対立図
式が現実を歪めている。
その陰で、現実社会では、新たな第三の働き方が静かに、しかし急
速に広がっている。企業の経営者も、働く人々も、めざしている視
線の先はそちらを向いている。
雇用かフリーランスか、言い換えれば組織に属しているか否かにか
かわらず、半ば自営業のようにある程度まとまった仕事を一人でこ
なす「自営型」と呼ぶべき働き方が注目されている。
アメリカのシリコンバレーのような時代の先端を行く地域から、イ
タリア、台湾、中国などの伝統的な国・地域の職場にまで、自営型
が広がっている。
日本でも、情報・ソフト系の企業をはじめ、多様な業種の現場に、
自営型が浸透しつつある。IT化とグローバル化に加えて、コロナ
感染拡大の影響も受けて、自営型の普及が加速している。
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自営型には、注目すべき点が二つある。一つは、それが新たな経営
環境にマッチしていることだ。そして、それが人間にとって理想に
近い働き方だということだ。
もう一つは、伝統的な日本の職場に特有な仕事能力が、自営型でこ
そ発揮されるということだ。自営型は日本社会に馴染みやすく、日
本の強みを最大限に生かせる働き方なのだ。
世界のビジネス界、労働界の議論はジョブ型の先に進んでいない。
だから、日本の企業と社会が先陣を切って自営型の働き方を発展・
普及させるべきだ。ジャパンアズナンバーワンの再来も夢でない。
そのためには、自己変革も必要だ。自営型社会では、個人に求めら
れる能力や姿勢も変わる。特にAIの普及で、人間特有のアナログ
的能力と自営業的発想や生き方がより大切になるはずだ。
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日本企業の組織や働き方には2つの大きな特徴があり、それらが同
居している。それが日本企業の「強み」を「弱み」に相殺させてい
る。あるいは「強み」が「弱み」の陰に隠れてしまっている。
日本企業の弱みは、経営家族主義だ。つまり、家族主義的、共同体
的なシステムだ。一方、強みは、アナログ的能力、企業特殊的、あ
るいは個人特殊的能力だ。
AIに淘汰されない能力とは、勘やひらめき、独創性、想像力など
の能力だ。ひと言でいうなら「知恵」であり、アナログ的能力だ。
ITの苦手なアナログ的な能力こそが求められるのだ。
ポスト工業社会では、ハードよりソフトが価値を持つ。ソフトはユ
ニークであることが価値の源泉だ。企業特殊的能力、さらに余人を
もって代えがたい個人特殊的能力にこそ注目すべきだ。
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日本の共同体型組織という弱みが、アナログ的能力という強みの発
揮を妨げている。共同体型組織は閉鎖的で同質的だ。誰かが注目さ
れると、周りの人の存在が霞む。だから出る杭を打つようになる。
また、共同体型組織では、組織の内と外が隔てられ、メンバーは匿
名で仕事をするのが通例だ。いくら有能でも外から認められる可能
性が低い。
しかも、人事部主導によるローテーション人事のもとでは、本人が
やりたい仕事に就いたり、続けたりする保証がない。このような条
件下では、突出したモチベーションは生まれにくい。
イノベーションもブレークスルーも、本来は個人が起点の突出した
モチベーションから生まれるのが普通だ。それだけに、やる気に
「天井」がある構造は大きなハンディとなる。
もう一つの特徴である同質性も、イノベーションにはマイナスだ。
同質的な集団は、経験や知識、それに考え方も類似している。だか
らユニークな発想が生まれにくいというデメリットがあるわけだ。
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