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第296号:「脆性破壊という恐怖」

田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『 田中優の未来レポート 』 第296号/2023.11.30 http://www.mag2.com/m/0001363131.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 脆性破壊という恐怖 対面授業 今年3年ぶりに対面授業をした。やっぱりいい。授業は反応があって成り立つものだと思う。リモートでは独り言を言っているみたいだ。オンラインでは本当に聞いているかどうかもわからないし、何より張り合いがないのだ。今年は対面なので張り合いがある。学生たちは感想カードに答えてくれる。 でも残念ながら授業も今年で終わりにする。足が不自由になって、通うのが大変になったからだ。加えて交通費が十分ではなく、得られるはずの講師料に食い込んでしまう。そりゃ東京から岡山に越したのだから仕方ないとは思うし、大学はそれなりに努力してくれている。これまでは東京に行くにも他に予定が入っていたからいいが、他に用事がないと出掛ける甲斐がないのだ。そんなわけで大学には夜行バスで通っている。なんとそれなら交通費は不足にはならないのだ。ただ二晩連続で夜行バスに乗るのはきつい。「カネがなければ体力で」と思うのだが、その肝心な体力も歳のせいでままならないのだ。 それはともかく、大学の授業で学生たちから大きな反響のあった話をしたい。それは「脆性(ぜいせい)破壊」の話だ。金属は伸び縮みしにくく、その代わりに割れにくい。ガラスのようにパリッと割れにくいものだ。ところがある条件が加わると、まるでガラスのように割れるようになる。これが脆性破壊だ。 原子炉の脆性破壊 ~緊急冷却時が危ない、玄海原発1号機 例えば冷たいガラスのコップにお湯を注いだりしない。ガラスのコップが割れるかもしれないからだ。ところが金属のコップに中性子をぶつけると、段々とコップが脆くなり、急激な温度差だけで割れるようになってしまう。これを恐れるために原子炉の釜の金属(原子炉容器)には新品の時に同じ材質の金属を原子炉に張り付ける。この金属片を取り出してどの程度金属が「脆性(しなやかさ)」を失ったかを調べるのだ。この破壊される温度差が問題だ。新品の時点でマイナス14℃でも割れなかった金属が、例えば98℃のお湯でもパリッと割れることになる(図1)。 図1 この温度はお湯だ。急激な温度差と言っても私たちが暮らしている一気圧の元では沸騰寸前の熱さだ。 実は図1のグラフは現に使われていて稼働している九州電力の稼働させている玄海原発の金属片の結果なのだ。もしこのデータ通りなら、もし原発事故のために急冷する必要があって水を掛けたなら、その時点で割れてしまう。困ったことにこの圧力容器の中は160気圧という大きな圧力を掛けて320℃の水を循環させている。通常の水は320℃のでは水にはなれず水蒸気となってあたり一面に飛び散るだろう。我々が火傷するのはせいぜい100℃程度だから、320℃の水蒸気を浴びたらどうなるのか想像すらできない。それを包んでいる原子子圧力容器が割れるのだから、その水蒸気はすべてを熱くして飛び散るだろぅ。 なんでこんな危険なものを作ったのかと言えば、危険性の高い放射能を閉じ込めるためだった、つまりその水は原子炉で核燃料に触れて放射能汚染している。それが信じられないほどの圧力と温度で飛び掛かってくるのだ。もちろん放射能を含んで。 世界ではこの「加圧水型原子炉」の方が多い。おそらく放射能の影響を恐れた技術者たちが、もう一つの型である「沸騰水型軽水炉」がタービンまでをも放射能汚染する危険を回避しようと考えたためだろう。タービンが回転するのは圧力の掛かった水蒸気がタービンの羽根に当たることで回転を上げ、より出力を上げられる。でもその圧力差を稼ぐにはタービンまで放射能汚染させなければならない。放射能汚染される範囲を小さくするために範囲を圧力容器までに留め、面倒にも二次冷却水を利用して放射能と隔離してタービンを回そうとしたのだろう(図2)。

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  • 環境活動家、田中優(たなかゆう)の有料・活動支援版メルマガです。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などのさまざまなNGO活動に関わり、日本で初めてのNPOバンクを作りました。経験と知識と綿密なデータを基に、独自の視点で生み出した社会の新しい仕組みづくりのヒントや国内外を取材したお話をご紹介します。頂いた購読料の一部を、次の社会を作るための活動資金にさせて頂きます。 ★まぐまぐ大賞2017 専門情報部門にて【第1位】 ★まぐまぐ大賞2018 専門情報部門にて【第2位】 ★まぐまぐ大賞2019 専門情報部門にて【第3位】 を頂きました!
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