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日本経済凋落の真因を探る(第22回:最終回): 自動車産業の危機(その5:最終回) 辻野晃一郎のアタマの中【Vol.33】

『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』  ~時代の本質を知る力を身につけよう~【Vol.33】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【今週号の目次】 1. 気になったニュースから  ◆ イーロン・マスクのニューラリンクに関する続報 2. 今週のメインコラム  ◆ 日本経済凋落の真因を探る(第22回:最終回): 自動車産業の危機(その5:最終回) 3. 読者の質問に答えます! 4. スタッフ“イギー”のつぶやき ───────────── 2. 今週のメインコラム ───────────── ◆ 日本経済凋落の真因を探る(第22回:最終回): 自動車産業の危機(その5:最終回) 「日本経済凋落の真因を探る」シリーズの「自動車産業編」の最終回です。最終回では、先行きが不透明なトヨタのウーブン・シティ構想、BEVシフトへの出遅れの裏で起きている諸事情、ソニーとホンダが合弁会社を作ってEVに参入しようとしている話などについて追記した上で、最後に、日本の自動車産業が今後生き残っていくための課題について整理したいと思います。 なお、自動車産業編の最終回を以って、全22回に及んだ「日本経済凋落の真因を探る」シリーズを終わりとさせていただきます。 ◇ 頓挫が見えてきたウーブン・シティ構想 トヨタが2020年の年初、米国ラスベガスで毎年新年に開催されるCES(Consumer Electronics Show)で発表し、鳴り物入りでスタートしたウーブン・シティの実験都市構想ですが、その後の進捗はどうなっているのでしょうか。 トヨタイムズなどで公開されている映像を観る限り、来年夏の完成を目指した第一期の建設工事は進んでいるようですし、日本橋の技術開発拠点などでは、実験都市の地下に張り巡らす予定の物流システムの構築実験などが進んでいるようです。しかし、そもそもこの実験都市で主に何を検証したいのかは曖昧な印象です。たとえば、物流システムについては、アマゾンなどが既にやっていることに比べても極めて初歩的です。また、それを使って自宅に配送された荷物を取りに行く宅内ロボットの実験なども行っていますが、宅内なので人が取りに行けば済むような話です。やることをもっと絞り込まないと、時間と資金がいくらあっても足りなくなるような感想を持ちました。 技術発表の面でも、これまでのところ特にこれといったものは見当たらず、今のところ具体的にどのような成果が期待できるのかはまだ見えて来ません。もともと、ウーブン・プラネット・ホールディングスという新会社を作ってCEOにグーグルからジェームス・カフナーという人物を迎え入れ、豊田章男氏の長男の大輔氏を社長に就けてスタートしましたが、9月にはカフナー氏が解任され、大輔氏も頼りない印象です。社名をウーブン・バイ・トヨタと改名してトヨタ本社が梃入れに動いている様子をみると、あまりうまくいっていないのではないかと思います。 ウーブンでは、自動運転を視野に入れた「Arene(アリーン)」と呼ばれる車載OSなど、SDV(Software Defined Vehicle)化に向けたソフトウェアプラットフォーム作りも請け負っていましたが、こちらも難航している様子です。このあたりは、 本メルマガ第29号でも述べた通り、企業の成り立ちからしてもテスラやグーグルなどにはなかなか追い付けない領域と言えますので、今のところ差が開いていく一方なのではないでしょうか。 ちなみに、裾野市では、ウーブン・シティと連動して「次世代型近未来都市構想」という市独自の街作り15年構想を進める動きがありましたが、市長の交代に伴って既に廃止されています。 ◇ BEVシフト出遅れの裏で起きていること BEVシフトへの出遅れは、日本の電池産業にも深刻なダメージを与えています。車載用電池の世界シェアでは、テスラなどとも提携しているパナソニックがかつては首位でしたが、その後トヨタ依存を強めたことが災いして急失速しています。昨年度のランキングでは、パナソニックの世界シェアは10%で4位に後退しました。1位は中国のCATLで世界シェアは34%、BYDが12%で3位です。一方で、トヨタは次世代電池ともされる全個体電池で出光興産と合弁会社を作り2027年の量産を目指すことが発表されています。以前にも述べた通り、電池はBEVにとっての基幹部品ですから、全個体電池の開発に力を入れるのは当然ですが、既に各国のメーカーが入り乱れての開発競争になっていますし、仮にここで勝てたとしても次世代の自動車産業を制する決め手にはならないと思います。やはり、SDVの開発力、すなわちソフトウェア、クラウド、人工知能などの技術がこれからの自動車産業にとっての基幹技術になっていくでしょう。 巨大企業として政治的な影響力も大きなトヨタは、BEVを抑制して水素燃料車(FCV:MIRAI)を優遇するように経産省に圧力をかけてきました。その結果、BEVへの補助金が最大85万円なのに対して、FCVには最大255万円の補助金が付くことになっています。尤も、補助金を厚くしたところで、水素ステーションが普及していない現状ではFCVが売れるはずもなく、逆にBYDなどは補助金も最大限に活用して日本市場にも攻勢をかけてきていますので、トヨタの意向を気にした国の政策は、結局のところ日本の自動車メーカーの足を引っ張っているだけという気がします。 ◇ ソニーとホンダのチャレンジ トヨタ以外の動向を一つだけ取り上げておくと、ソニーとホンダが合弁会社を設立してBEVに参入する動きがあることは周知の通りです。日本の産業史的には、ソニー創業者の井深大とホンダ創業者の本田宗一郎は無二の親友でもあり、戦後日本の経済発展を牽引したこの2社が共同で次世代の自動車産業に参入することには感慨深いものがあります。日本のメディアも興味津々でしょう。 しかしながら、グローバルな視点から見ると、既に中国を始め雨後の筍のように乱立するEVメーカーの中に、日本から新参者のソニーと後発組のホンダが弱者連合を組んだEVメーカーが1社新たに加わるに過ぎない、という冷めた見方になります。しかも実車の販売開始は2026年がターゲットとのことなので、動きの速いEV市場の中でどこまで存在感を示すことになるのかはまったくの未知数と言えます。 「車内エンターテインメントで差別化する」という戦略にもピンときません。そもそも映画を観たりゲームをしたりするために車に乗るわけではありませんし、そうしたければスマホもタブレットもあります。デザイン的にも、発表されているAFEELAのプロトタイプを見る限り、他社に比べて特に印象に残るような特徴は見当たりません。AFEELAのフロントグリルには電光掲示板のようなディスプレイが付いていて、「AFEELAの意思を周囲の人に伝えるためのメディアバー」との説明です。タクシーなどの商用車であれば広告表示等の用途があり得るでしょうし、このようなデジタルサイネージは徐々に広まっていく可能性があると思いますが、個人所有の車であれば無用の長物にしか思えません。 自らアピールしているスペック面での特徴は、車内外に装備した計45個のカメラやセンサーと、それらから得た情報を処理するために採用したクアルコム製の「Snapdragon Digital Chassis」のようです。クアルコムは通信やモバイル用の半導体で急成長したファブレスの半導体メーカーですが、かつてソニーとはCDMA方式のモバイル端末生産のためにジョイントベンチャーを起こしたこともあり、長期にわたる関係を続けています。通信やモバイルに続き車載に力を入れるクアルコムと共同で、テスラやエヌビディア等に比べてどこまで競争力のあるSDVプラットフォームを構築できるかが勝負になるでしょう。 ◇ 日本の自動車産業が生き残っていくためには 自動車産業がまったく新しい産業として生まれ変わろうとしている中、従来の日本メーカーが生き残るためには、単なる「車屋」からの脱却が必須です。趣味の世界は別として、新たな自動車産業としては、 前号で紹介した豊田章男氏の発言に見られるような「ガソリン車への郷愁」はきれいさっぱり捨て去る必要があります。 こんなことを言うと、現在、自動車産業に携わっておられる方の中には「単なる車屋とは失礼な!」とお怒りになる方もいるかもしれません。もちろん、長年にわたって築き上げてきた日本の自動車技術はまさに世界最高峰の素晴らしいものです。産業としても、これまで日本のみならず世界に大きく貢献してきたことには最大限の敬意を払いたいと思いますし、同じ日本人としても誇らしい限りです。 しかしながら、テスラのような全く新しい異質な存在が出現し、グーグルも自動運転を飛躍的に進化させました。そしてこれからは人工知能の全盛期が始まります。そのような中、--

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