ドクター畑地の診察室219.2023.12.3.
現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。
世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信!
https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/
三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる
松阪市民病院院長
診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当
https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php
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酸素投与方法の進歩
酸素を吸いながら歩いている方をしばしば見かけることもあります。多くの方は一分間に1Lから2Lの酸素を吸入している訳ですが、1L酸素を吸入するとどうなるのでしょうか。
成人が一回に呼吸する量は約500mlです。1分間にほぼ15回呼吸している訳ですので、4秒に1回程度呼吸していることになります。息を吸う吸気の時間と息を吐く呼気の時間が同じだと仮定すると、2秒間で500ml、即ち1秒間で250ml空気を吸っていることになります。1L酸素を投与した場合、1秒間で1000/60、ほぼ17mlの酸素を投与していることになります。
空気中の酸素濃度は21%ですから、1L酸素を投与した場合、233mlは21%濃度の酸素を、17mlは100%濃度の酸素を吸っていることになりますので、1L酸素を吸っている人は、233×0.21+17/250=0.26でほぼ26%の酸素を吸っていることになります。実際には、呼気時間の方が吸気時間より長いことや、その時の色々な状況を考慮しなければいけないことから、1L酸素を投与するについて、2%から4%吸入酸素濃度が上がると言われております。
酸素マスクで酸素を吸わせたら100%の酸素を吸わせることができるのか考えてみましょう。結論から言わせていただくと、残念ながらできません。一般的な酸素回路からは、1分間に12L位の酸素しか供給できません。したがって、目一杯酸素を流したとしても、12000/60で200mlしか1秒間に供給出来ない訳ですから、少なく見積もった1秒間の吸入空気量250mlを全て賄うことができず、どうしても普通の空気が入ってしまう訳です。
じゃあ、100%の酸素を吸入させるためにはどうすれば良いのか、方法は2通りあります。昔からある方法としては、人工呼吸器などの外気を一切入れない閉鎖回路に装着することです。従来は、気管内挿管して人工呼吸器に装着するしかなかった訳ですが、20年ほど前から鼻マスク式人工呼吸器(NPPV)がかなり改良され、臨床の現場で用いられるようになりました。
鼻から酸素を吸わせるだけで、100%の酸素を投与できないのか、この長年の命題に答えたのが(Nasal High Flow以下NHF)と言う方法です。特殊な装置を用いることにより、鼻から1分間に30L以上の酸素を投与することができるような装着が開発されました。この方法ですと、鼻からの投与で1秒間に500ml以上の流量が得られるので、呼吸する全ての空気を置換することができる訳です。例えば、NHFを用いて50%の酸素を投与すれば、患者さんは50%の酸素濃度の空気を吸うことになり、自在に患者さんの状況に応じて酸素濃度を調整することが可能になります。マスクでなく、口が覆われていないため、高濃度の酸素を投与しながら、食事ができることも利点の一つです。
従来は、重症の呼吸不全の患者には、人工呼吸器しかなかった訳ですが、酸素投与の方法も進歩しており、NHFの出現により、より侵襲が少ない方法で高濃度酸素投与ができるようになった訳です。
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ドクター畑地の診察室219.2023.12.3号
毎週日曜日お昼に配信予定です。
次号は2023.12.10.です。
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畑地 治
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◆2023年11月
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