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§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな § vol.482 § 2023年12月2日発行 §
今週のトピック:『時代の行動者たち』刊行:2019年のデモを香港市民はなぜ、どのようにして支えたのか
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日々、香港のニュースに目をやるごとにやるせなさばかりが先に立つ。
先日も、学齢期の子どもの4人に1人が過去1年間に精神障害による疾患を抱えているという調査報告に激震した。子どもの自殺もここ数年極端に増えており、それはもちろん、直接は彼らの悩みを解決するための手段がないことから来る絶望感によるものなのだが、学校も友だちも家族も、あるいはもっと身近な親戚たちにも相談相手がいないか、あるいは真剣に聞いてもらえないという疎外感をこれほど多くの子どもたちが抱えていることにとにかく驚くばかりだ。
総面積が東京都ほどもない香港では、かつて人と人との関係が密だった。子どものそばに誰かがいて、仕事で忙しい両親に代わって親戚が自分の子どもと一緒に面倒を見てくれるケースもよくあった。だいたい、祖父母を囲んで誕生会だの、お祝いごとなどと父母の兄弟姉妹とその家族が集まるのが習慣になっており、大人たちも親戚の子どもと遠慮なく付き合える環境があった。また、子どもたち自身もその成長過程でできた友だちとは、小学校から中学校、高校(多くの場合、中高一貫校である場合が多いが)、さらには大学へと進んでも、付き合い続けることが可能だった。そのほとんどが、狭い香港の中で暮らしていたからだ。
しかし、ここ10年ほどの社会の混乱が、そうやって香港が時間をかけて培ってきた人間の関係を大きく変えた。政治や立場の違いから、古い友人との付き合いが絶たれてしまったり、親戚や家族の中でもお互いを許せないほどの亀裂が走った。また、政治的にすでに身動きが取れなくなってしまった香港から、雪崩を打って海外へと移民する人たちの波、波、波……親しかった友人を移民で失い、殺伐とした社会のムードの中で頼るべき大人を見つけられず、誰に相談して良いのかもわからないまま、子どもたちの心はバランスを失いやすくなってしまった。
冒頭の結果を公表した調査を行った諮問委員会の新委員長に就任した小児科医も、この問題を「医療面の課題」と捉えるべきではないと述べ、「子どもたちの防衛線は医師ではなく、彼らの教師、学友、家族、友人、あるいはソーシャルメディア上で知り合った友人だ」と社会的な対応を呼びかけている。
それでもその小児科医も、なぜ子どもたちがそこに至ったか、については触れていない。もしそれが医療面での問題ではなく、これほど広範囲に子どもたちを悩ませている社会的な問題によって引き起こされているのであれば、その問題解決への取り組みこそが急務であろう。だが、いま起きているこの問題に向き合わざるを得ない医師ですら、その「社会的問題」の根本については語らない。
そうなのだ、いまは大人たちですらその重要な起因について言葉にして語り、それを不安解消につなげて香港社会にどっしりとのしかかる「問題」を取り除くことができないでいる。そんな社会において、まだか弱い精神を持つ子どもたちにしわ寄せが起こっているのである。つまり、子どもたちが抱える心理的不安はそのまま香港が抱える「最大の問題」であるといえる。
●デモを支えた多くの市民の行動とは
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