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週刊Life is beautiful 2023年12月5日号:市民X:謎の天才「サトシ・ナカモト」、Costcoのビジネスモデルとe-commerce3.0

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 市民X:謎の天才「サトシ・ナカモト」 私も出演者の一人として関わった、「市民X:謎の天才『サトシ・ナカモト』」がようやくNHKで放送されました(ダイジェスト版が11月13日、完全版が11月26日)。 NHKのプロデューサーから連絡を受けたのが、今年の5月、実際に取材を受けたのが8月ですが、8月には、プロデューサーとカメラマンがシアトルの私の家まで足を運び、撮影機材を設置して簡易スタジオを作り、数時間かけて撮影する、という丁寧なものでした。 私と同様の取材を12人の人にしたのですから、莫大な時間とコストをかけた番組で、民放では到底出来ない芸当です。 ビットコインや暗号通貨に関する解説番組ではなく、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトに焦点を当てた番組作りは素晴らしいと思いましが、取材された私の目線では少し消化不良を起こしそうな番組です。 ビットコインがいかに画期的だったかに焦点を当てた前半は、悪くはないとは思うのですが、12人もの人に意見を聞いたため、逆に分かりにくくなっていた部分があると思います。分かりやすさを重視するのであれば、3人ぐらいに絞って、一人一人にもう少し話させた方が良かったと思います。 12人もの人に意見を聞けば、異なる見方や意見が出てきても当然ですが、その部分が曖昧になってしまっていた部分が多いと思います。 ちなみに、「サトシ・ナカモトがビットコインを作った意図」に関して言えば、「政権の都合で赤字国債を発行するたびに希薄化される法定通貨」とは異なる「誰にもコントロールされていない、発行量の決まった、薄まらない通貨」を作りたかった点に関しては疑問の余地はありません。みたいな交渉をするのです。 ここまでは、Costcoと通常の小売業に違いはありませんが、Costcoはここからの行動が、根本的に違うのです。通常の小売業であれば、1000円で飛ぶように売れた商品は、たとえ仕入れ値が下がったとしても同じく1000円で売ります。より多くの粗利を得るチャンスだからです。Amazonのようなe-commerceの場合、需要に応じたダイナミック・プライシングを行う結果、1000円以上の価格で売るケースすらあります。小売価格は、仕入れ値から決まるのではなく、需要から決まるのです。 Costcoの場合、粗利は14%以下に抑えなければいけない、という社則があるため、仕入れ値が下がると、売値も自動的に下がります。このケースでは、1000円で飛ぶように売れた商品を、次は900円で売ることになるのです。 こんなことが可能になるのは、Costcoのビジネスモデルが、通常の小売業とは根本的に違うからです。Costcoで買い物をするためには、年間5000円(日本の場合)の会費を払う必要がありますが、この会費がCostcoの利益なのです。 Costcoの社員全員がこのビジネスモデルの違いを理解した上で、常に「顧客の満足度」のことだけを考えて行動しているのです。 仕入れを担当する人は、良い商品を出来るだけ安く仕入れることに全力を尽くします。粗悪品を売ると、顧客の満足度が下がるし、返品率も増えてしまいます。また、顧客が欲しがらない商品を仕入れてしまっては、在庫が積み上がるので、需要に関しても常に勉強しています。 以前、Costcoで電気製品の仕入れを担当している人と話したことがありますが、彼によると、「仕入れた商品が2カ月後の仕入れ先への支払いより先に売り切れること」が彼にとっての成功指標だと言っていました。 この成功指標には二つの意味が含まれています。一つ目は、需要の存在です。大量仕入れにより仕入れ値を下げるCostcoは、通常の小売業のように品数を揃えることは難しいので、「顧客が欲しがっている商品」を仕入れて顧客を満足させることは必須なのです。 もう一つは、在庫コストです。商品を現金で仕入れて販売する場合、そこに金利分のコストがかかります。資金の調達コスト(銀行から融資を受ける際の金利など)が年利6%の時に、100万円分の在庫を1カ月抱えると、100万円*0.06/12 = 2万円のコストがかかってしまいます。

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