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§ ぶんぶくちゃいな § vol.483 § ポッドキャスト「不明白播客」:「白紙運動は終わりじゃない、始まりなんだ」(前編) §

§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ § 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな § vol.483 § 2023年12月9日発行 § 今週のトピック:ポッドキャスト「不明白播客」:「白紙運動は終わりじゃない、始 まりなんだ」(前編) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1年前の今頃、いったいどんなふうに過ごしていたか、覚えているだろうか。 1年前の中国ではちょうど、11月末に新疆ウイグル自治区ウルムチ市のマンション火災で、消火活動が路上のコロナ対策の柵によって阻まれて遅れ、幼い子どもを含む住民が焼死するという悲惨な事件をきっかけに、厳しいコロナゼロ政策に対する抗議活動が起き、それが「白紙運動」となって全国へと飛び火したところだった。 その運動に「白紙」と名付けられたのは、最初に南京の大学キャンパスで抗議に立ち上がった学生が、プラカードの代わりに白いコピー用紙を手にしていたからだ。もちろん、それは典型的なデモとして要求を書き込んだプラカードを持つと、中国的には大変危険であることを察した上での行動で、また「白い紙」がそのままさまざまな人たちのさまざまな要求を包括できることもあり、あっという間に全国で賛同を引き起こした。 その結果、中国政府は12月初めにそれまで鉄壁のような厳しさで行われていたコロナゼロ政策を撤廃して(しかし、政府は「撤回」「撤廃」とは絶対に口にせず)、世界を驚かせた。 あの白紙運動は、その規模と運動が持つ熱量、さらにはデモ隊が破壊活動も行わない一方で一般市民が無言で次々とそこへ加わるという動きから、1989年の天安門広場で起きた抗議活動以来のデモと言われた。 もちろん、そうした行動を引き起こした根底に人々のコロナゼロ政策への不満があったことは大前提だが、それに加えて、いったい全国でどんなことが起きているのかについての情報提供が大きな引き金になった。 そんな中、最も人々の注目を集めたのが、ツイッター上にこつ然と出現したアカウント「李老師不是ニー老師」だった。海外で拾い集めた、中国のさまざまなSNS上で流れる各地の市民の叫び声を、ツイッターに流し続けるというこのアカウントは、ニュース機関ですら追えない貴重な庶民の視点を提供し続けた。さらには、注目が増すに従い、直接ツイッターを使ってアカウント主に現場で起きていることを伝えて、代わりに配信してもらう人たちも続出。 「天安門事件以来のデモ抗議」現場での緊張が高まる中、「李老師不是ニー老師」は中国で起きている事件に注目する人たちが見つめ続けるアカウントとなった。 その白紙運動から1年。あのツイッターアカウントの主はこの1年間をいかに振り返るのか。本メルマガではすでにおなじみとなった、米「ニューヨーク・タイムズ」記者の袁莉さんが、自身のポッドキャスト「不明白播客」でインタビューした内容を、2回に分けてご紹介する。 中国で起きる大事件や抗議、そして中国人社会とはどんな社会なのか。中国社会が変わっていくことは可能なのか。 自らの成長過程で目にしてきたこと、外国にでてから振り返ったその過程について、袁莉さんとアカウント主の李穎さんのやりとりをぜひご覧いただきたい。そして、そのやり取りの中で、我われ日本人が中国で起こる事件のたびに期待しつつも、見誤っている現実についてもここで確認できるはずである。 ===================== ◎ポッドキャスト「不明白播客」:「白紙運動は終わりじゃない、始まりなんだ」by @李老師不是你老師(前編) 袁莉(以下、「袁」):「不明白播客」へようこそ、ホストの袁莉です。 1年前の白紙運動前夜、普通の留学生だった李穎は、多くの若者と同じように困惑や無力感を抱えつつ、政治に対して悶々としており、コロナゼロ政策がいつ終わるのか、自分はいつイタリアから帰国できるのか、さらには自分の国は今後どこに向かうのかなど、わからないことだらけでした。 そんななか、白紙運動、フォックスコンでの騒乱騒ぎ[*1]、そしてコロナゼロ政策に対する全国的な抗議行動のさなかに、李さんのツイッターアカウント「李老師不是你老師」[*2]が中国語情報のハブとなりました。塀の中[*3]の人たちが彼に伝えたいことを送り、彼がツイッターを通じて世界中に中国人がまさにそのとき経験していることを伝えたからです。 《[*1]フォックスコンでの騒乱騒ぎ:米アップル製品の組み立て工場である「富士康 Foxconn」で、生産を優先する工場経営者側に対して工場内でのコロナ感染不安に怯える労働者たちが立ち上がって抗議を行った事件。一部労働者は職場を放棄し、工場を取り囲んだフェンスを乗り越えて帰宅を目指した。 [*2]「李老師不是你老師」:直訳では「李先生はあなたの先生ではない」となる。これは「L」と「N」の発音がよく似ており、そのため「李 Li」と「あなた」を意味する「ニー Ni」をひっかけたダジャレのようなネーミングである。 [*3]塀の中:中国国内から海外への情報へのアクセスが厳しく制限されていることを揶揄する言葉。そのアクセス規制を乗り越えて海外の情報に接する手段は「壁越え」と呼ばれる。》 今日はその李さんをお招きし、ここ1年において彼の目に映る中国人の変化や、この時代において人々のために声を上げることで払った代償、さらに彼も諦めかけたことがあったのか、なぜ彼は「雪の結晶」をシンボルにしているのか、なぜ彼は「愛」について語るのが好きなのか、そしてモンスターと戦う彼自身がモンスターにならないためにどうしているのか、また「トップ反逆者」と呼ばれるようになったことをどう感じているのか、なぜ彼は白紙運動は始まりであって終わりではないと考えるのかなどについて、うかがいます。 李さん、こんにちは。 ちょうど1年前の白紙運動前夜のあなたの生活とお仕事はどんな状況だったのでしょうか? 李穎(以下、「李」):1年前、白紙運動前のぼくは実は大学を卒業したばかりの留学生でした。当時、他の多くの新卒者と同じように、帰国すべきか、それともここで何かを見つけるべきか迷っていました。 学生時代は、留学カウンセラーのアルバイトをしたり、作品ポートフォリオを作ったり、人に絵を教えたりしていました。ちょうどこのままミラノでそれを続けようかどうか悩んでいたところです。ツイッターを始めたのは手持ち無沙汰だったからで、あの年の4月にぼくが「微博 Weibo」[以下、ウェイボ]にもっていたアカウントがことごとく潰されてしまったため、ツイッターを始めたんです。 その後は、ぼくにこれをつぶやいてほしいという人がいると、その人に代わってつぶやいてあげる、みたいなことをやっていました。 それが突然変わったのが10月頃、彭載舟の事件[*4]が起こり、急にぼく自身の気持ちが大きく変わったんです。なぜか? 《[*4]彭載舟の事件:2022年10月13日、北京西部のバイパス「四通橋」上で、一市民の彭載舟が「独裁者習近平を罷免せよ」などと書いた横断幕を下げ、コロナゼロ政策を激しく批判した事件。彭はその後逮捕され、連れ去られたが、消息は不明となっている。》 その時のぼくにはまだ中国に帰る決心がついていなかった。主な理由は怖かったから。 というのも2019年頃からコロナの感染が拡大してから、ずっといつ感染が止むのか分からなかったし。そして2021年の夏ごろには、ヨーロッパではワクチン接種後、自由に生活できるようになっていました。しかし、中国では規制がどんどん厳しくなっていた。それはぼくにとってかなり大きなギャップでした。現実の生活ではほとんど普通に暮らしているのに、ネットでは、あるいは家族と話をしていると、そこで行われている感染対策がかなり厳しいことに気づかされたんです。 そして2022年にオミクロンによる感染が拡大し、上海がロックダウンされたことは、当時海外にいるぼくのような留学生にとってかなり大きなダメージでした。まさか自分の国があんなふうに封鎖され、管理され、「大白」[*5]がドアを蹴破って家に入ってきて人々を連れ去るなんて。とても怖くて、そんな場所には戻りたくないと思った。でも、両親は中国にいるし、どうしよう? もう少し待つべきか? そうやって感染が終わるのを待っていたところです。 《[*5]大白:各団地で住民のPCR検査やその他感染防止策を担当していた、全身真っ白な防護服姿の衛生担当者の俗称。》 なのにいつまでも終わらない。このままずっと封鎖されたままなのか?と絶望的になっていたときに起きた彭載舟の事件は、ぼくにとって大きな衝撃でした。みんなのために声を上げた人がいる、と。そしてその声がみんなの注意を引いて、そして一緒に政策を撤回させようという呼びかけになったわけです。 ぼくは彼にとても勇気づけられた。そこから中国国内でのコロナゼロ政策に抵抗するような書き込みを投稿し始めたんです。そしてぼく自身で中国国内のSNS上で情報を探し求めてはそれをツイートした。多くの人たちが壁越えしていることは知っていたし、そんな彼らに事態に抵抗している人がいるんだってことを知ってほしかった。そんなときに白紙運動が起こり、すべてが変わってしまったんです。 ●「トップ売国奴」と呼ばれて……

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