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2000年代に世界は同一都市文化になり、逆に国内の分断が広がった 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.786

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2023.12.18 Vol.786 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 2000年代に世界は同一都市文化になり、逆に国内の分断が広がった 〜〜〜現代日本の「横の旅行」と「縦の旅行」(3) 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 2000年代に世界は同一都市文化になり、逆に国内の分断が広がった 〜〜〜現代日本の「横の旅行」と「縦の旅行」(3) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 貴族でも平民でもなく、知識人でも一般大衆でもなく、だれもが参加できる「中間文化」が戦後の日本では花開きました。それを支えたのはテレビや新聞、ラジオ、雑誌といったマスメディアです。だれもがアクセスしやすいメディアが存在することで、文化は一部の階層だけでなく、あらゆる階層のあらゆる土地の人へと津々浦々に広がっていくことができました。 かつてファッション雑誌がつくり出すトレンドは、3年ぐらいで地方にも広く波及すると言われていました。東京で1980年に流行ったファッションは、1983年ぐらいになると東北から九州までの地方都市の多くで見られるようになる。中間文化の多くは東京にある出版社やテレビ局や広告企業によって生成され、それがじわりと全国に広がっていくという中央集権型だったのです。 この中間文化の時代は、おおむね1950年代から90年代ぐらいまでは持続したと言えるでしょう。長いといえば長いけれども、わずか半世紀というのは歴史の時間で言えばあっという間でもあります。 2000年代、東京と地方の関係は大きく変わっていきました。東京の文化的な中央集権が崩れ、東京を目指す若者が減り、中央志向ではなく「地元を愛してる」「地元で仲間と楽しくやっていきたい」と考える若者が増え、「ジモティ」ということばが流行り、2010年代には「マイルドヤンキー」と命名されるようにもなりました。 このあたりから東京のファッションが時間差で地方で流行るということがだんだんと減っていき、たとえば東京では無印良品のようなモノトーンの衣類が好まれるのに対し、地方ではシマムラに代表されるようなデコラティブで華美な日常着が愛されるというような分離が起きてきます。 この時期の地方発、そして東京は無縁だった文化のひとつとして「ケータイ小説」があります。わたしは2008年に「ケータイ小説家―憧れの作家10人が初めて語る“自分” 」(小学館)というルポルタージュを出しており、この時期ケータイ小説を書いている若者たちに集中取材をしています。この本のあとがきで、わたしは以下のように書きました。引用します。 --- いまの若者たちの多くは、将来に夢を抱くこともできず、仕事も見つけにくく、収入も少なく、とてもつらい目に遭いながら、それでも一生懸命生きている。特に地方の街では、高校を卒業してもたいした仕事はなく、フリーターになるぐらいしか道はない。家のまわりには田んぼと寂れた工場、それに街道沿いにぽつんぽつんと立つコンビニエンスストアやマクドナルドやユニクロぐらいしかなく、テレビに出てくるような華やかな都会の生活にはまったく無縁だ。 だからといって、そうした女の子たちがレイプされたり、援助交際しているわけじゃないと思う。おそらくほとんどの人たちは、そんなひどい話とは無縁に、ただ淡々と日々を送っているのだと思う。 でもそうした彼女たちにとっては、レイプや援助交際や妊娠は、決して縁遠い世界の話ではなく、いつ自分もそうなるのかわからないリアルなストーリーに映っている。だから彼女たちには、ケータイ小説の登場人物たちがそうした苦難を乗り越え、がんばって生き抜いていこうとする姿に共感できる。 ケータイ小説の世界は、そんなふうな共感を生み出す場所になっている。 読者が「このシーンにすごく感動しました」「この話をもっと知りたいです」と伝えると、作家の側がそうした声を意識して書き直したり、次の展開を考えたりというようなこともごく普通に行われている。作家の側も、そうやって読者と仲間意識を持って、共感できることが、小説を書くときの大きな原動力となっている。 この本にも登場してもらった『天使がくれたもの』のChacoさんは、読者のことを「家族みたいな存在」と呼んでいた。とても強く、作家と読者はつながっている。 私が最初に会った未来さんにしても、そもそも作家志望の文学少女だったわけではなかった。ひとりの女性としてさまざまな経験をし、その経験を文章に書くことで、気持ちの整理ができるんじゃないかと思った。そうやって書いているうちに読者とつながり、気がつけば読者との共感の中で自分の体験を書いていくことに、すごく大切な何かを感じ取るようになっていた。

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