映画評『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督、2023)
役所広司さんがカンヌで最優秀男優賞を取り、もしかしたらオスカーでも相当な評価がされるという噂もあります。日本ではこれから公開ですので、詳しいことは申し上げられませんが、ユニクロのファースト・リテイリングが制作に深く関与しており、同社の柳井康治氏がプロデュースしています。
ヴェンダースという「日本文化の大ファン」が、自由に日本というイメージを映像化しているということで、作品としてはどうしようもない説得力はあります。ヴェンダースという人は、母国のドイツには「居場所がない」ということが、自身の、そして多くの作品の強いモチーフになっているわけです。そのヴェンダースが、「どうしようもなく心地いい居場所」として、東京の下町を描いたわけですが、そこには呆れるほどの「納得感」があります。
その「どうしようもない居心地の良さ」を、「どうしようもなく上手に」表現してしまうヴェンダースというのは、本当のヴェンダースなのか、というのが多分、一番の問題なのだと思います。監督として、制作サイドと観客に精一杯サービスしたということもあるのかもしれませんが、それでも残る陰影のようなものがやはり足りない感じはしました。
もしかしたら「現代ドイツなるもの」への絶望が深いことの反映として「日本にどうしようもない居心地の良さ」を感じているのかもしれません。ですが、それはそれとして、どこかにノイズのような形で出ているのかというと、本作には感じられませんでした。
それはともかく、作品としてはまずファストリなどが、東京五輪への協賛という形で関与している「TOKYO TOILET」プロジェクトの宣伝映画という仕立てです。ですから、全体がこのプロジェクトの紹介になっています。また、このプロジェクトの初期には、渋谷の宮下公園でホームレスの人々を追い出したという騒動があったわけですが、本作ではホームレスの役(田中泯さん)を好意的に描いて、過去の騒動とのバランスを取ろうとしているなど、PR臭はかなり濃厚にあります。
そうなのですが、全体として仕上がった作品としては、渋谷の「最新のアート的なトイレ」では「なく」、生活感のある下町にこそ「真の日本」があるという、ある意味ではPR意図をマイナスしてしまうような建付けになっているのも事実です。
ヴェンダースは堂々とそうした表現を行い、ファストリの柳井Pは堂々とそれを許容したということで、この作品は出来上がっており、それはそれで認めるしかないのもまた事実だと思います。世界的には役所広司さんの演技が大絶賛されていますが、個人的には三浦友和さんのシーンもプロの仕事と思いました。
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