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vol.208:サブスク化する小売業「ホールセラー」。フーマの生死をかけた戦いとは

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
  • 2023/12/25
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 208 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。 今回は、ホールセラーについてご紹介します。 ホールセラーと言えば、日本ではコストコが有名です。会員制の大型店で、卸倉庫のような店内に中に入って、ケース単位で食品や日用品を買うというスタイルです。一般スーパーでの販売価格に比べると2割前後は安く購入できますが、低価格を売りにしているわけではありません。品質に関しては良質のものが多く、どちらかというと中流の上の層をねらったビジネスで、「良質な商品が標準品価格で購入できる」ことが魅力になっています。 中国では、1996年にウォルマート系のホールセラー「サムズクラブ」が出店しましたが、なかなか中国人消費者の心をつかむことはできませんでした。しかし、2010年代半ばあたりからサムズクラブの人気が出てきて、これにアリババ系の新小売スーパー「フーマ」が、会員制ホールセラー「フーマX」を出店して対抗をしています。 その競争も熾烈になってきて、人気商品になったスイーツ「ドリアンミルフィーユ」をサムズクラブとフーマXの間で、値下げ合戦をするという事態になっています。あちらが下げらればこちらも下げるという具合で、ネットでは「小学生のケンカみたい」と面白がられていますが、フーマの侯毅CEOは大真面目な顔で「生死を賭けた戦い」と発言しています。 なぜ、ホールセラーの競争が、生死を賭けた戦いになるのでしょうか。それは、ホールセラーがある意味で小売業の究極の進化系だからです。小売業のすべてがホールセラーになっていくということではありませんが、ホールセラーは小売のひとつの到達点になっています。フーマとしては、ここをサムズクラブに取られてしまっては展望が開けなくなります。そこで「生死を賭けた戦い」という厳しい言葉が出てきているのです。 今回は、ホールセラーというのがどのようなビジネスモデルを採用しているのかをご紹介し、なぜフーマにとって、ホールセラーで勝ち抜くことがそれほど重要なことなのかを知っていただくことが目的です。 今回は、ホールセラーのビジネスモデルをご紹介し、フーマにとって、ホールセラーがなぜ重要なのかをご紹介します。 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 208 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼目次▼ サブスク化する小売業「ホールセラー」。フーマの生死をかけた戦いとは 小米物語その127 今週の「中華IT最新事情」 次号以降の予定 Q&Aコーナー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ サブスク化する小売業「ホールセラー」。 フーマの生死をかけた戦いとは ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は、ホールセラーについてご紹介します。 アリババ傘下の新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が、ウォルマート傘下のホールセラー「サムズクラブ」と激しい価格合戦を繰り広げています。サムズクラブは、日本ではコストコとよく似たビジネスモデルであり、年会費260元を支払うことで買い物ができるという会員制スーパーです。多くの商品がケース買いなど量が多い点もコストコなどと似ています。 このサムズクラブが、今、中国の消費者に受け入れられています。サムズクラブが中国に進出をしたのは、1996年と古く、深圳に第1号店が開店しました。しかし、あまりうまくいかず、スーパーであるウォルマートに改装されています。その後もサムズクラブの拡大は遅く、2013年になってようやく10店舗目が開店するという状況でした。 しかし、2010年後半からサムズクラブの人気が盛り上がります。そこから急速に店舗を拡大し、現在は約60店舗にまで増えています。 この動きを他社が見逃すわけはありません。サムズクラブと同じ会員制スーパーを、フーマも出店していきます。「盒馬X会員店」(フーマX)で、現在、北京、上海、蘇州、南京の4都市に10店舗を展開しています。さらに、スーパーの「永輝」(ヨンホイ)が永輝倉貯店を、ドイツのスーパー「メトロ」がメトロPLUSを、国内スタートアップの「fudi」などが続々とホールセラーをオープンしました。しかし、実質的にはフーマXとサムズクラブの一騎打ちの格好です。 このフーマXとサムズクラブが熾烈な価格競争を始めています。サムズクラブが128元で発売したスイーツ「ドリアンミルフィーユ」が人気商品となりました。そこに、フーマXも同様の商品を発売し99元で発売をしました。すると、サムズクラブは98.9元に値下げ、フーマXが対抗して89元に値下げします。さらに、サムズクラブが88元に下げるという価格改定がたびたび行われ、現在はサムズクラブは85元、フーマXは79元という価格になっています。 ネットでは「小学生のケンカみたい」という意見が圧倒的です。ところがフーマの侯毅(ホウ・イ)CEOは、大真面目な顔で「生死を賭けた戦い」と呼んでいます。フーマXでは、この価格改定を「移山価格」と名づけています。これは中国で有名な古事成語「愚公移山」に倣っています。昔、愚公という人が山のそばに住んでいて、山が移動にじゃまであることから、山を移そうとします。毎日、少しずつ土を運びますが、ほとんど山に影響はありません。周りの人たちは愚かな努力をしていると笑いますが、愚公は「自分の代で無理なら、子どもの代、孫の代にも続けて、必ずやり遂げる」と答えました。すると、それを見ていた天帝(神様)が山を移してくれたというものです。地道な努力を続ければ、必ず事は成るという意味の古事成語です。 商品の値下げをするというのは簡単ではありません。一時的な優待価格であれば、販促費から支出をして赤字価格で販売できますが、価格改定は永久的なものです。コストを見直し、流通経費を見直し、店舗の業務効率をあげてという地道な努力が必要になります。移山価格という言葉には、そういう覚悟が含まれています。 また、侯毅CEOは、フーマの最終戦争になるという言い方もしています。

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