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第244号 戦争という絶対悪/大晦日と小晦日/小晦日/ブックレビュー

きっこのメルマガ
  • 2023/12/27
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「戦争という絶対悪」 日本のことではないため、もう忘れてしまった人も多いと思いますが、今年2月6日、トルコ南東部を震源として、マグニチュード7.8と7.5の連続した巨大地震が発生しました。後に「トルコ・シリア地震」と名づけられたこの地震では、トルコからシリアに掛けて、東日本大震災の犠牲者の約3倍にも上る5万6000人以上が死亡し、東京都の人口を遥かに超える2300万人以上が被災しました。しかし、まだ「しました」などと過去形では語れない厳しい状況が続いています。それは、巨大地震で家を失った難民キャンプの人たちが、今度は戦争に巻き込まれようとしているからです。 シリアでは2011年の「アラブの春」以来、独裁を続けるアサド政権と民主化を求める反体制派の間で10年以上も内戦が続いていますが、アサド大統領はイスラエルのネタニヤフ首相と同じく「テロリストが隠れている」という説明を大義として、自国の学校や病院や住宅を空爆し続けて来ました。日本で言えば自衛隊が東京を空爆するような話です。これによって多くのシリア国民が虐殺され、これまでに1300万人以上もの国民が難民となって国外へ脱出しました。 これらのシリア難民はトルコなどの周辺国に避難していますが、空爆で親を失った子どもたちなどは、国境地帯の難民キャンプで苦しい生活を続けています。あたしは、シリア軍の空爆によって両親を殺された、身寄りのない子どもたちの難民キャンプの映像を観て、涙が止まらなくなりました。 それであたしは、シリアの難民キャンプの子どもたちに、水と食料と医薬品を送る国際NGOの寄付に参加しました。毎月わずかな金額ですが、これまで12年間、寄付を続けて来ました。そのため、今年2月6日に「トルコ・シリア地震」が発生した時は、とても心配しましたし、その後も、ずっとシリアの情勢に注目して来ました。 多くの日本人にとって、中東の戦争など「対岸の火事」であり、心配することと言えば「原油」のことだけだと思います。そして、現在のイスラエルとハマスの戦争も、「イスラエル軍がガザ地区を一方的に攻撃している」という程度の認識だと思います。ちょっと詳しい人でも、イスラエル軍がハマスの他に、レバノン南部を拠点とするシーア派のヒズボラと戦闘していることを認識している程度だと思います。でも、アメリカをバックにつけたイスラエルが攻撃しているのは、パレスチナのガザ地区やレバノンのヒズボラだけではないのです。 今回の戦争は、今年10月7日のハマスによる「アクサーの大洪水作戦」が発端ですが、寝首を掻かれたイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスへの復讐のためのガザ地区への攻撃だけでなく、シリアへの攻撃も開始したのです。12月に入ってからだけでも、イスラエル軍は占領しているシリアのゴラン高原の基地から、17日にはシリアの首都ダマスカス周辺を狙って複数のミサイルを発射し、シリア軍が一部のミサイルを撃墜するという戦闘がありました。 そしてイスラエル軍は、21日までの1週間に、シリア全土の空港や石油施設や発電所などを空爆し、ダマスカス国際空港とアレッポ国際空港を機能停止にしました。現在、シリアで機能している空港は、ラタキア国際空港のみとなり、国連の人道支援活動に大きな影響が出ています。 また、23日には、トルコ軍がシリア北東部のアル・ハサカ州の複数の石油施設を空爆しました。この辺は中東情勢のややこしい部分なのですが、シリアからの難民を受け入れているトルコでも、クルド人が率いる反体制派のシリア民主軍のことは「テロリスト」として敵対視しているのです。そのため、トルコ軍はシリア民主軍が支配するアル・ハサカ州を空爆したわけです。 つまり、同じ「シリアへの攻撃」でも、シリアのアサド政権を狙ったイスラエル軍の攻撃と、シリア内の反体制派、シリア民主軍を狙ったトルコ軍の攻撃は、大きく違っているのです。でも、こうした空爆によって、最も大きな被害を受けているのは、パレスチナのガザ地区と同様に、民間人であり、必要最低限の支援物資も届かなくなった難民キャンプの子どもたちなのです。 現在のシリアが「今世紀最悪の人道危機」 と呼ばれる状況に至った背景には、今年5月1日にヨルダンのアンマンで行なわれたアラブ連盟の外相会談があります。21カ国と1機構が参加するアラブ連盟は、「アラブの春」以降12年間にわたってシリアを連盟から排除して来ました。しかし、この会談にはシリアの外相も参加して、シリアのアラブ連盟復帰について話し合われたのです。そして、5月7日にエジプトのカイロで行なわれたアラブ連盟の会談で、シリアの連盟復帰を認める決議が採択されたのです。 これによって、アメリカからの攻撃を受けつつも、アラブ世界の中でも孤立しており、助けてくれるのはロシアとイランだけ。でも、ロシアのプーチン大統領は、ここ2年は自分のことで精一杯で、シリアの面倒など見てくれない。もはや頼れるのはイランだけ‥‥という四面楚歌の一歩手前の状態だったアサド大統領は、ついに「アラブ連盟」という大きな味方を得たのです。 一方、シリアに経済制裁を加え続けて来た欧米諸国は、政権が交代したのならともかく、独裁者アサドが牛耳ったままのシリアがアラブ連盟に復帰することなど許せるはずがありません。特にアメリカは、2017年に当時のトランプ大統領がシリアの空軍基地に59発のトマホークミサイルをぶち込んだ記憶も新しいほど、アサド政権を憎んでいます。これは、民主党のバイデン大統領に代わっても同じでしたし、来年、またトランプ大統領に代われば、さらに激化します。 結局、シリアという中東の国は、アメリカとロシアの代理戦場であり、イスラエルとイランの代理戦場でもあり、「戦争」という大国の殺人ビジネスに巣食う数々の過激派組織の温床でもあるのです。そして、何の罪もない人々が、子どもや女性やお年寄りなどの弱い人々が、毎日のように殺され続けているのです。

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