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第247号 災害関連死という人災/きっこのカラオケデビュー秘話/寒中水泳/暗黙のマイルール

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  • 2024/01/17
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「災害関連死という人災」 最大震度7を観測した今回の「能登半島地震」に関する日々の報道の中で、何よりも胸が痛むのは、報道のたびに増えて行く死者数です。そんな中、5日前の1月13日には次のような報道がありました。 「石川県は13日、午前9時現在の死者数が215人のまま前日から変わらず、うち災害関連死は1人減って13人になったと発表した。」 死者が1人でも減ったのなら‥‥と、あたしは一瞬、喜びそうになったのですが、記事を読み進めると、次のように書かれていました。 「県によると、災害関連死が減ったのは輪島市。地震による建物倒壊などで亡くなる直接死と確認されたためという。」 亡くなったと思った人が生きていたのではなく、災害関連死だと思われていた人が直接死だった、ということでした。この災害関連死ですが、国の基本的な定義としては「災害による直接の被害ではなく、避難途中や避難後に死亡した者の死因について、災害との因果関係が認められるもの」ということになっています。つまり、地震や津波などの災害で直接亡くなった「直接死」とは違い、災害では一命をとりとめたものの、その後の避難生活によるストレスや持病の悪化、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)などで亡くなった人のことを指します。 この災害関連死という概念は、1995年の「阪神・淡路大震災」を機に生まれました。「阪神・淡路大震災」の死者数は6434人ですが、このうち約14%に当たる921人が災害関連死として国に認定されています。災害関連死として国に認定されると、亡くなった人が生計を維持する人なら500万円、その他の人は250万円の災害弔慰金が遺族に支給されます。 しかし、災害関連死の認定は各市町村に委ねられており、統一的な基準がないため、地域によって認定にバラつきがあります。たとえば、同じ震災で同じような亡くなり方をしたのに、A町の避難所にいた人は認定され、B町の避難所にいた人は認定されなかった、というケースもあるのです。そのため、全国では認定されなかった人の遺族が、国に認定を求めて裁判を起こしている事例が少なくありません。 この災害関連死が注目されたのは、2004年10月に発生した「新潟県中越地震」でした。地震による直接死が16人だったのに対して、その後に亡くなった災害関連死が、直接死の3倍を超える52人に及んだからです。この52人の主な死因は、避難生活のストレスによる心筋梗塞や脳梗塞、長期の車中泊によるエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)、また、エンジンを掛けたままの車中泊による一酸化炭素中毒で亡くなった人もいました。さらには、避難所から仮設住宅に移ることができても、失職や孤立化というストレスによって持病を悪化させたり、心筋梗塞や脳梗塞を発症させて死亡するケースが相次ぎました。 こうした状況に対して、長岡市は「これでは埒(らち)が明かない」として「震災から半年以上が過ぎた場合は災害関連死ではないと推定する」という、いわゆる「長岡基準」を定めました。そのため、半年を過ぎて亡くなった人たちの遺族が、国に対して「災害関連死を認めてほしい」という裁判を次々と起こしたのです。 この「長岡基準」は、2011年3月の「東日本大震災」でも、多くの市町村が参考にしました。しかし「東日本大震災」は被害の規模も避難の実態も「新潟県中越地震」とは大きく異なっていたため、震災から半年を過ぎたケースでも、各自治体は個々の状況を踏まえて認定審査をしていると言います。 ここで、「東日本大震災」で最も被害の大きかった東北3県の直接死と災害関連死の人数を見てみましょう。これは復興庁の調査による最新のデータ、2023年3月のものですが、左が直接死、右が災害関連死の人数です。 岩手県 4675人 470人 宮城県 9544人 931人 福島県 1614人 2337人 これを見れば一目瞭然ですが、岩手県と宮城県の災害関連死が直接死の1割程度なのに対して、福島県だけは直接死より災害関連死のほうが遥かに多いのです。その原因は、今さら説明する必要もありませんが、福島第1原発事故なのです。こうした災害関連死は、避難生活が長期化すれば増加すると言われていますが、それでは、同じく復興庁の2023年3月のデータから、現在の避難者数を見てみましょう。 岩手県 895人 宮城県 1924人 福島県 27394人 こちらも一目瞭然ですね。原発事故という人災によって故郷を追われ、震災から13年経った今も自分の家に帰れない人たちが、福島県には2万7000人以上もいるのです。ひとくちに13年と言っても、震災当時に小学1年生だった子どもたちは、今年で20歳になるのです。そして、この突出した福島県の避難者数は、そのまま災害関連死の人数に反映されているのです。 さらには、これは書くことを躊躇(ためら)うほど悲しい事実ですが、この2337人という福島県の災害関連死のうち、少なくとも150人以上は「自死」なのです。原発事故によって故郷を奪われ、仕事を奪われ、生活を奪われ、生きる希望を失った多くの人たちが、自らの命を絶ったのです。 福島県のある酪農家は、牛小屋の壁にペンキで東京電力と政府への恨みを書き殴り、牛小屋の中で首を吊りました。死後2週間も経ってから仮設住宅で遺体が発見された高齢女性は、1人用のコタツの上に当時の安倍政権への恨みが書かれた遺書が残されていました。 災害関連死を考える上では、原発事故が原因の福島県は特例なので、自然災害のみのケースに戻しますが、特に極端な例が、2016年4月に発生した「熊本地震」です。「熊本地震」では、地震による直接死は50人ですが、その後、直接死の4倍を超える218人が災害関連死で亡くなっているのです。この地震では、18万人を超える住民が避難し、県内に約900カ所の避難所が開設されましたが、必要数の仮設住宅が整備されるまで、最長で7カ月以上の避難生活が続きました。 複数の病院や高齢者施設も被災したため、多くの高齢者を避難・転院させなければならず、その移動中に死亡した高齢者が少なくとも27人。また、プライバシーのない避難所を嫌い、避難所の周囲に停めたマイカーで車中泊していた被災者のうち、エコノミークラス症候群で亡くなった人が少なくとも33人と報告されています。しかし、これは一部調査の結果なので、実際には、さらに多くの人たちが同様の原因で亡くなっていると思われます。 震災以外でも、2015年9月の「関東・東北豪雨」では、死者21人のうち約60%に当たる13人が災害関連死と認定されました。また、2019年5月に発生した「令和元年房総半島台風」では、何と死者13人のうち、ほぼ全員と言っても過言ではない12人が災害関連死と認定されています。これらはすべて、当事の安倍政権の対応の遅れが原因と指摘されています。 今回の「能登半島地震」の震災関連死は、現時点で13人と報告されています。しかし、3万人近い人たちが避難している上、被害状況から見ても避難生活の長期化は避けられません。今後、災害関連死をどれだけ最小限に抑えられるかは、すべて政府の対応に委ねられているのです。 これは政府もマスコミも分かっているようで、今ラジオを聴いていると、NHKも民放も震災関連のニュースを報じるたびに「車中泊をしている人はエコノミークラス症候群にならないように、定期的に車から降りて脚の屈伸運動などをしてください」という注意を補足しています。あたしの知る限り、こうした放送は初めてですが、たぶん「熊本地震」から学習したのでしょう。

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