「誤解される能登半島地震」
具体的には何が伝わっていないのでしょうか?
まず、孤立集落の場所です。ここへ来て孤立集落の問題が、温暖な大都市圏で話題になっているようです。例えば、名コンビと言える立憲の米山隆一衆議院議員が「今こそ、限界集落の移転と集約の議論を開始するとき」と訴えると、西村博之氏が「遺体の捜索が続く今する議論ではない。寄付金減少の副作用も懸念される。一ヶ月後でいいのではないか」と応酬したのは有名です。
ただ、この議論ですが、一般的にイメージされているのは「山奥のポツン」ということで、谷筋にある集落が過疎化して数軒だけが残っているケースだと思います。その谷筋の一本道が土砂崩れなどで通行止めになって、その数軒が孤立している、そのため食糧などの確保は自衛隊が「徒歩」で行っている、そんなイメージです。
それならば、「地元に残りたい」と言っている高齢者の「ワガママ」をいつまでも許す訳にはいかないし、そもそも数軒の集落のために何億円もかけて谷筋の道を修理するのは無理。従って、今回の被災を契機に離村してもらいたい、そんな議論です。この話題に併せて、「ポツンで頑張っていた高齢者も、流石に超高齢になって健康が不安になったら里に下りてもらおう」というような全国レベルの一般論も出ています。
ですが、そこには少し誤解があるようです。確かに、能登には無数の谷筋があり、そこに小規模集落があって過疎高齢化しており、その集落が被災したのは事実です。そうしたケースは恐らく数十から百近く、あるいはそれ以上あるでしょう。ただ、こうした谷筋のポツンについては、相当数が避難を完了しており、余程の理由がない限り地元に固執している住民は少ないようです。
よく考えてみれば、細い谷筋の道が土砂崩れや地割れで普通となり、そこを自衛隊員が徒歩で頻繁に食糧補給に通うというようなスキームは成立しないからです。具体的には二次災害の危険が非常に高い中では、住民を救出するという選択の一択になるからです。
では、現在、つまり被災から2週間強を経た現在でも「孤立」が問題になっているのはどんなところかというと、実は半島北部の日本海にダイレクトに面した海岸線の中規模集落です。例示しますと、
珠洲市大谷町
珠洲市折戸町
珠洲市馬蝶町
輪島市西保地区
といった地区で、いずれも100名前後の住民が孤立しています。共通点は、北の日本海岸であること、海岸沿いの半島周回路が甚大な被害を受けて不通となっていること、海岸線は異常な隆起現象で破壊されて海上からのアプローチも難しいということです。
ですから、今日現在でも数百単位の「脱出待機」があるという過酷な状況です。そんな状況で「移住を決断せよ」というのがタイミング的に妥当かどうかは別として、では、こうした地域の今後を考える場合には、議論はそれほど複雑ではないように思われます。
まず、こうした地区を通る道路ですが、半島周回路の「国道249号線」であり、これを補完する「県道28号線」です。その被害は甚大です。ですから修復には大変な費用と労力がかかります。ですが、例えば今回ネット論壇に溢れているように「コスパが悪いからインフラの修復はしないで、住民は移住してもらう」という選択は恐らく不可能だと思います。
理由は非常に簡単です。国道249号と、県道28号を放棄するということは、能登半島の半島周回路を放棄することになります。ということは、有史以来日本のある意味では文化や社会生活のルーツであった旧能登国の統治を放棄することになります。これは国のかたちの崩壊を招く判断であり、そもそもあり得ないのではないかと思います。
仮にこの2本の道路を放棄する、そして海岸線の中小規模集落も放棄して住民は都市圏に移動させるということになりますと、この地域の独特の産業、習俗、文化は消滅します。これは日本という国のたぶん根幹に関わる何かを放棄することになるのだと思います。
同時にこの海岸線は安全保障上の意味合いがあります。この地域を全く放棄して、住民の人口がなく、半島周回の自動車道も寸断されるということになりますと、人間を含めた生態系は崩壊します。同時に万が一の外敵の侵入を容易に許すということにもなりかねません。沿海州や、北朝鮮の東海岸から至近のこの海岸線が無防備だということになると、安全保障上の「抜け穴」となってしまいます。
ですから、周回路の再建は恐らくマストですし、沿岸の中規模集落の維持というのも、国策としてマストなのだと思います。とにかく、現在の孤立集落は北部海岸に集中しているということは、多くの判断をする上で前提になる情報ですが、これが共有されていないのは良くありません。(続く)
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