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254回 日本テレビというクズ放送局

和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
京アニ事件で、被告人(と代理人の弁護士)が控訴して話題になっている。 控訴の理由が被告人は発信したいことがあるというし、弁護士は、重い精神障害があったことが認められなかったことのように言っているが、普通に考えると弁護士の控訴理由のほうがもっともだ。 こういう事件があると、精神障害によって心神喪失が認められたら36人も殺しておいて無罪とはどういうことかという話になる。 一般人の感覚として、それを許せないのはよくわかるが、先進国ならどこの国でもある制度なので、先進国をやめる覚悟があるのなら廃止すればいいというのが、精神科医というより一市民としての私の意見だ。死刑制度廃止も先進国のトレンドになっているが、これについてはアメリカという超大国がまだ許しているので、日本も許しやすい。 アメリカまで廃止にしたら、日本はどうするという議論をせざるを得なくなる。ただ、アメリカは怪しいやつがいたら撃ち殺していいという文化なので、たぶん死刑の廃止はないだろう。 人が考えるより、幻覚や妄想というのはつらい状態なのも確かだ。 いじめられっ子に常時脅されているのと同じような状態なのだ。 「あいつを殺さないと、お前を殺す」と言われ続けて、ついに相手を殺してしまう。 それがつらくて自殺する人も多い。人を殺すよりずっと多いと考えられている。 そういう意味では、心神喪失で刑事責任を問わないという考え方は妥当なものとは思う。 だから、欧米でも心神喪失は当たり前になっているのだが、その代わり、再犯の可能性に応じて、触法精神障碍者用の治療施設に入れられる。場合によっては、一生出してもらえない。 無罪になるのが不愉快という感情はわかるが、むしろそういう施設を作るほうがグローバルスタンダードに近いのに、それを金をケチって作らないほうが問題のように思えてならない。 もう一つは、殺人のような重罪の場合、確かに精神鑑定で無罪になり、精神科病院に送られることは問題にされることが多いが、何度も話題にするが、日本の警察は、交通で金儲けをすることにばかり力を入れて、捜査をなるべくしたくないので、この精神鑑定の制度をいいように利用しているということがある。 この精神鑑定という手は、犯行を認めない限り適応されない。 否認事案では犯行を警察なり検察が立証したうえで、弁護側がそのままそれに反対して否認を続けるか、犯行を認める代わりに精神鑑定を受けて、責任能力がなかったということにするかを決めないといけない。 通常は弁護士が被告人を説得して、精神鑑定を受けさせ、通常は責任能力がないということになって精神科病院に送られる。 これを警察が捜査を面倒くさがって、弁護側に、「ちょっと供述がおかしいけど、精神障害ということにしてくれない」というような取引を行う。 警察側は犯行を認めさせたことになる上に、面倒な捜査がいらなくなる。 弁護士は無罪(というか、不起訴処分)を勝ち取ったことになる。 両方の顔が立つが、被告人は無罪になる代わりに精神科病院送りが待っている。 昔の精神病院はひどかった。 私が初めて勤めた精神病院は、新左翼の運動家がたくさんいて、開放医療を目指す良心的病院(その代わり給料は安かった)だったが、その病院に通院する患者さんの弟が私が初めて受け持った患者さんだった。 その患者さんは、16歳のときに大分県で万引きをやって、その時の供述が意味不明ということで、精神鑑定を受けさせられて、大分の有名悪徳精神病院(当時は精神科病院でなく精神病院と言われていた)に入院させられていた。そして20年間、鉄格子のある病院で、病院どころか病棟の外から一歩も出されることなく、それを兄が知り、私の勤めていた病院に転院してきた。 女性経験もなく思春期を過ごしたせいか、性欲も亢進していて、一日中「セックス」と言っていたが、少しずつ話が通じるようになった。 たかが、万引きでこの扱いかと思っていたが、精神鑑定とは、殺人の人にとっては、死刑を逃れられるチャンスではあるが、圧倒的多数の微罪の人にとっては残酷刑につながるということは知ってほしい。 もう、そんな病院はないと思うかもしれないが、『精神医療ビジネスの闇』(米田倫康著、北新宿出版、2月下旬発売予定)のゲラを読ませてもらった限り、まだまだ患者さんにひどい仕打ちをする悪徳病院は残っている。 精神鑑定によって、刑務所より怖い精神科病院が待っている実態は知ってほしい。 ついでにいうと、この事件の被告はかなりひどい児童虐待を受けている。これに対しては責任能力に関係ないとされている。 ただ、虐待が見つかれば、アメリカのようにちゃんと保護施設で育てるようにすればこんな事件は激減するはずだが、テレビ局としてはニュースのネタが減るので、そういうことを言うコメンテーターは絶対に出さない。 正義漢ぶって、悪を断罪する前に犯罪の抑止を考えてほしい。 ついでにいうと、36人殺したとかいうことでこの精神障害のある被告は極悪人扱いされているが、痩せすぎモデルを追放するどころか痩せているほうが美しいという価値観をまき散らすことで、毎年拒食症で100人も死んでいるのに、それは正義なのだろうか? 自殺報道のガイドラインを守れば、2万人の自殺者のうち何割かを減らすことができるはずなのに、それを守らないで何千人も殺しているテレビ局に、36人殺しを断罪する資格はないと私は信じる。

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  • 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
  • 世の中のいろいろなことにたった一つしかないと考え、それを信じ込むことは、前頭葉の老化を進め、脳に悪い。 また、それが行き詰った時に鬱になるというメンタルヘルスにも問題を生じる。 ところが日本では、テレビでもラジオでも、○○はいい、××は悪いと正解を求め、一方向性のオンパレードである。 そこで、私は、世間の人の言わない、別の考え方を提示して、考えるヒントを少しでも増やし、脳の老化予防、メンタルヘルス、頭の柔軟性を少しでもましになるように、テレビやラジオで言えない暴論も含めて、私の考える正解、私の本音を提供し続けていきたいと思う。 質問、相談、書いてほしいテーマ等、随時受付。
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