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No.75 九鬼周造『「いき」の構造』が書かれた要因・背景

淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」
  • 2024/02/05
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いつもお読みいただきありがとうございます。 第75回目の淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」をお送りします。 前々回は「粋(いき)」と「野暮(やぼ)」の「野暮」について「野暮」を承知で考察(*1)、前回は「粋(いき)」をめぐる野暮な考察(*2)をしてきました。 今回は、『「いき」の構造』(*3)が書かれた背景・要因と考えられる哲学者・九鬼周造(*3)の留学時代、生い立ちや、九鬼哲学の特徴、「いき」という言葉の翻訳の難しさなどについての説明・考察していきます。 (*1)「野暮」の考察:http://tinyurl.com/mv48as5p (*2) 「粋(いき)」の考察:http://tinyurl.com/4c8ph8jp (*3) 『「いき」の構造』:http://tinyurl.com/jxbc36tu http://tinyurl.com/33cat344 (*4) 九鬼周造:http://tinyurl.com/3zbckaxh ********* 九鬼周造の留学時代 ********* 九鬼周造は、1888年2月15日生まれ(東京都)、1941年5月6日没(京都市)。 東京帝国大学哲学科大学院中退後、1921年よりヨーロッパ諸国で足かけ8年間留学生活を送ります。 フランスではアンリ・ベルクソン(*5)、そして、フランス語の個人教師としてまだ学生だったジャン・ポール・サルトル(*6)を雇って、フランス語で哲学談義をしていたそうです。 ドイツでは、マルティン・ハイデガー(*7)に師事し、三木清(*8)や和辻哲郎(*9)などとともに日本でハイデガーの哲学を受容した最初の世代に当たり、「実存」といった哲学用語の訳語の定着をはじめとして、日本におけるハイデッガー受容において重要な役割を果たしました、また、ハイデッガーの方も九鬼を高く評価しています。 もっともサルトルはともかくハイデガーが、実存主義とは必ずしも言えないと思いますが・・・。 1929年に帰国後は、京都大学で西洋哲学を教えました。 尚、留学時代にすでに、『「いき」の構造』の構想は固まりつつあり、草稿はしたためられていたようです。 (*5)ベルグソン:http://tinyurl.com/4eh6u4d7 (*6)サルトル:http://tinyurl.com/34rsz3tf (*7)ハイデガー:http://tinyurl.com/mp3m69kx (*8)三木清:http://tinyurl.com/mrxb7xsp (*9)和辻哲郎:http://tinyurl.com/32x9d2jm ************* 九鬼周造の父母と岡倉天心 ************* 父は九鬼水軍(*10)の流れをくむ男爵・九鬼隆一(*11)。 明治を代表する文部官僚で、お雇い外国人(*12)、アーネスト・フェノロサ(*13)と部下の岡倉天心(*14)の東京美術学校(*15)の開設を後押ししました。 その東京美術学校で岡倉天心が行った講義をまとめた「日本美術史」(*16)は、日本の伝統美術の歴史を世界の視野から説いた初めての通史でした。 欧化主義と国粋主義のあいだに揺れる明治国家にあって、美術を通して日本の伝統文化を近代国家の仕組みのなかに「正統」として位置づけて説いた画期的な著述です。 閑話休題、九鬼隆一は、最初の駐米特命全権公使など数々の政府要職を務めています。 母は京都の花柳界・祇園(*17)出身ともいわれている波津子(*18)。 アメリカ滞在中にその波津子が身ごもったので、隆一は同行していた部下の若い天心に付き添わせて、日本に帰国、出産できるようにはからいました。 その道中で岡倉天心と恋におち、隆一と別居、後に離縁するという事態となりました。 その時生まれたのが九鬼周造です。 このスキャンダルが怪文書騒動につながり、岡倉天心も設立間もない東京美術学校の校長の座を追われることになりました。 そして、波津子は発狂、精神病院で死の直前まで長い入院生活を送ることになります。 この辺の経緯を活写している齋藤なずな(*19)さんの漫画「千年の夢 下巻―文人たちの愛と死 小学館文庫」(*20)は、傑作です。 岡倉天心、九鬼波津子以外にも様々な文学者ほかの愛憎劇が描かれています。 ご興味があれば是非読んでみてください。 (*10)九鬼水軍:http://tinyurl.com/ytepjxwh (*11)九鬼隆一:http://tinyurl.com/mumn767u (*12)お雇い外国人:http://tinyurl.com/yc64c6em (*13)フェノロサ:http://tinyurl.com/2yssv7fm (*14)岡倉天心:http://tinyurl.com/yebkpad3 (*15)東京美術学校:http://tinyurl.com/yfjpbyus (*16)日本美術史http://tinyurl.com/y9atp2es (*17)祇園:http://tinyurl.com/58hd4v3e (*18)波津子:http://tinyurl.com/59tpwuu3 (*19) 齋藤なずな:http://tinyurl.com/37a9xhr3 (*20)「千年の夢 下巻―文人たちの愛と死」:http://tinyurl.com/3euv8xcv ********** 九鬼周造の精神的原点 ********** 九鬼周造は子供の頃、訪ねてくる九鬼波津子と道ならぬ恋に落ちた岡倉天心を父親と考えたこともあったと後に記しているそうです。 実父・隆一、精神上の父・岡倉、そして喪われた母という、この3人のはざまで幼少期・青年期の周造は成長していくこととなり、それは後の精神形成や哲学的思索にも大きな影響を与えることとなったと考えます。 彼の二度目の結婚相手は母・波津子と同じ京都の祇園出身。芸妓(*21)でした。 これには彼の生い立ちにより形成されてきたや独特の美意識が影響していたのでしょう。 九鬼の周囲では「九鬼先生が講義にたびたび遅刻してくるのは、毎朝祇園から人力車で帝大に乗り付けてこられるからだ」という噂がまことしやかに話されていたというエピソードが残されています。 (*21)芸妓:http://tinyurl.com/mr2y2485 彼が「粋(いき)」にこだわりテーマにとりあげ深い思索をめぐらしたのも、その生い立ちとも深い関係があるのでしょう。 *************** 「二元性」という九鬼哲学の特徴 ***************

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