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【死んでも書きたい話】 こっちも向こうも控訴しました

安田純平の死んでも書きたい話
2月末になっても寒い日が続いていますが、いかがおすごしでしょうか。 1月に判決が出た旅券の裁判では発給拒否取り消し命令が出ましたが、国側もこちらも控訴してまだ続きます。そもそも、トルコの5年の入国禁止は解けているはずなので、裁判とは関係なく何ら制限のない一般旅券が発給されなければおかしいのですが、他国に入国禁止にさせることなど外務省にとっては自由自在なのでどうなるか分からない、という話は前回も書いたとおりです。 たとえ旅券が出たとしても、円安が進みすぎて海外取材どころかただの旅行ですらかなり厳しい現状にあります。手っ取り早く資金を貯めるために他の仕事をときどきやるというのはフリーランスの常態で、久々に何かやってみようかと転職サイトやバイト紹介サイトを漁ってみました。 イラクで戦場出稼ぎ労働をしつつ取材したように、仕事をしながら中の様子を観察しつつ技術も身に着けるというのは、フリーだからできる、ある意味で特権でもあります。最近の労働市場についても何か垣間見れるかもしれません。 まず、派遣会社が非常に増えている印象です。コロナ禍の間、患者情報をひたすらデータ入力する仕事がかなり多かったらしく、労働者を派遣して上前をはねる業者が急増したと思われます。事務所に行ってみると雑居ビルの部屋をパーティションで仕切った程度の簡素な業者が多く、スタッフの対応も登録のシステムも付け焼刃的な印象でした。コロナ関係の仕事はそろそろ終了ということですが、何も考えずにできるということでコロナ関係に限らずデータ入力関係への応募者は多く、来月で50歳という初老の私は箸にも棒にもかからずに蹴られました。 何も身につかない労働で時間の切り売りをするのは時間の無駄なので、興味が湧きそうなものを物色していると、空港関係の募集がちらほらあることに気づきました。コロナ禍で海外からの便数が激減し、その間に、飛行機の誘導や積み荷の積み下ろし、客の荷物の預かりと積込みといった肉体労働を担ってきた人々が業界を去り、戻ってこない状況があるようです。人手不足は深刻で、空港自体にはもっと便数を増やす余力はあるのに、労働者が足りなくて便数を増やせないという事態に陥っており、そこへコロナ明けのインバウンド激増で対応しきれていないという実態があるようです。 成田空港 増便など受け入れられる見通し3分の2に 人手不足で https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231130/k10014272851000.html 私の年齢でも業者側から面談すると言ってきたのは、この記事に出てくる「スイスポートジャパン」という業者で、羽田空港第三ターミナルの出発ロビーで搭乗手続きをした客の荷物のうち、ベルトコンベアーに乗り切らない大荷物を飛行機までひたすら運び続ける仕事でした。羽田の第三ターミナルは海外便が利用するので荷物はでかいものが当たり前のように積み上げられるようで、面談の最初に「こんな具合が普通ですが大丈夫ですか」と重さ30キロのスーツケースを持たされました。 労働は8時間ということでしたが、朝の4時から離発着が始まり、その時間帯が特に混むということで前日の夜から泊まり込みで仮眠して作業をするそうです。飛行機が飛ばないのは夜中だけなので、シフトは昼と夜の交代で、基本は2日は昼、2日を夜の4日勤務を2日開けて繰り返すということなのですが、昼から夜に切り替わる日は朝の9時まで夜勤明けで働き、一旦帰ってから夜の9時にまた出勤というハードな日程で、これがきつくてやめる人も多いとのことでした。重い荷物を運び続けるために腰を痛めてやめていく人も少なくないようで、なかなかハードな仕事のようです。 とにかく人が足りず、空港に入っている業者同士で労働者の取り合い状態らしいのですが、派遣契約の場合はこのシフトを原則で守れということなのに時給1500円で、夜勤の間は1・25倍になるとしても労働の内容に合っていないのではないかと思いました。前述のデータ入力関係では時給1800円なども珍しくなく、夜勤まであるきつい肉体労働系で、何か技術が身につくわけでもない。これでは人手が集まるわけがない。 業者を雇っているのはJALで、インバウンドで来日客が増えているなら収益も上がっているはずなのに、労働者への報酬をケチって労働力を確保できないでいる、というのは日本企業らしい話です。 先程の記事の中で気になるのは《これまでは低い賃金でも航空業界への『憧れ』で人が集まってきたが、コロナ禍でこの業界が不安定だという認識に変わってしまった》という最後のコメントです。そうやって「やりがい」を利用して搾取してきたのが日本の航空業界で、コロナ禍で変わってしまったと被害者ぶっていますが、そもそものその搾取体質をどうにかしろ、という話です。 いちおうは就職活動なのに面談でそうした聞き込みと、「人手が足りないのなら給料を上げるしかないのではないですか?」といったツッコミを繰り返した結果、連絡が来なくなりました。

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  • ジャーナリスト安田純平が現場で見たり聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。
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