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佐々木俊尚の未来地図レポート 2024.3.25 Vol.799
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【今週のコンテンツ】
特集
方程式では「解」そのものではなく「解の公式」を示すことが大事
〜〜〜読解力の乏しい人たちにどう届けるのかという難題を考える
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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特集
方程式では「解」そのものではなく「解の公式」を示すことが大事
〜〜〜読解力の乏しい人たちにどう届けるのかという難題を考える
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読解力の乏しい人の存在が可視化されてしまったSNS時代。このような社会で、どのようにして発信していけばいいのでしょうか。
しばらく前に、とある情報プラットフォームを運営している人から話を聞いたことがあります。その人いわく「情報リテラシーの高い人は、情報に対してそうかんたんにはお金を払わないんですよね」という。
「情報にすぐにお金を払ってくれるのは、情報リテラシーの低い人たちという傾向があるんですよ。これは情報プラットフォームを運営してきて、わたしが最も実感してきた知見です。……残念ながら」
「そういう情報リテラシーの低い人たちは、単純化した世界観を呈示されると、すぐにそれに飛びつく。複雑な世界観を示されても『なんだかこねくりまわして難しい言葉を並べてるだけで、自分にはまったく刺さらない。だから間違ってる』とそっぽを向いてしまうのです」
「複雑な世界観を受容できるのは、情報リテラシーの高い人たちだけです。でも情報リテラシーの高い人たちは、情報リテラシーが高いがゆえに有料の情報を非常にていねいに吟味する。有意義な情報にはもちろん対価を支払いますが、低リテラシーの人たちと比べると情報にかけるお金の総量は全体として少なくなるのです」
身も蓋もない話だとは思いましたが、SNS社会における情報市場の現実を突いた考察だとも感じました。たしかに高リテラシーの人たちがYouTubeのスパチャにホイホイとお金を払うとは思えませんし、情報商材やスピリチュアルや陰謀論があふれてて、そういうところにお布施をしているのがどういう層かをイメージすれば、この考察は納得できる部分はあると思います。
こういう話を聞くと、高リテラシーの人たちにも、低リテラシーの人たちにも、双方に刺さる論考を発信していくというのは実に困難な課題なんだろうなと深々と悩んでしまうところです。そもそも双方に刺さってる言論人って、いまの日本のメディア空間ではきわめて稀なのではないでしょうか。
文学の世界に目を転じれば、村上春樹さんの作品群はこの希有な例に当てはまっていると感じます。低リテラシーの人たちでも読みやすい、平易でわかりやすい文体。ドラマチックな物語の展開。だれでも楽しめるエンタテインメントなんですが、単なるエンタメとしてだけでなく、さらに深掘りしたい人には奥深い哲学や世界観も用意されています。アニメの分野で言えば、「進撃の巨人」などもまさにそういう希有な例でしょう。
では村上文学や「進撃の巨人」のようなケースを、政治や社会、経済などの解説に応用することは可能でしょうか。それを、前回指摘したようなステレオタイプな「水戸黄門的な勧善懲悪」という単純二元論ではなく、しかしわかりやすく描く。
決して容易ではないのですが、いくつか方法はあるとわたしは考えています。そのひとつの方法が、「構図を明快に描いて見せる」というものです。たとえば前回に紹介したイスラエル・パレスチナ問題で言えば、「イスラエルが悪い」「パレスチナが悪い」と単純な善悪二元論で片づけるのではなく、「何が和平を妨害しているのか」という構図を明快に見せるということです。
前回も紹介したように、1990年代にイスラエルとパレスチナは和平へと向かった時期がありました。当時のラビン・イスラエル首相が「和平は友人とではなく、まったく共感できない敵と結ぶものだ」と素晴らしいことばで語り、クリントン米大統領の仲介で、パレスチナを代表していたPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長と会談し、合意に達したのです。
しかしこの合意は潰されました。ラビン首相が、イスラエル右派の青年に暗殺されたからです。世界が祝福したはずの和平に対して、イスラエル過激右派もパレスチナ過激左派も猛反発していたのです。書籍「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」は、「パレスチナの原理主義者は、イスラエルを撲滅すべき癌と考えていた」。イスラエルの右派過激派にとっては「ラビンは国土を譲歩しようとする裏切り者だった」と説明しています。
「双方の過激主義者は、いずれもこの紛争を、解決できないだけでなく解決すべきでないゼロサムゲームと見ていた。勝負がつくまで続けるべき闘いであり、いずれの側も勝利を確信していた。どちらも神は自分たちに味方していると固く信じていた」
つまり、以下のようなシンプルな構図で説明できるということです。
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