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第256号 内閣府の世論調査/映画の時間と集中力/海雲/素数ゼミの逆襲

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  • 2024/03/27
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「内閣府の世論調査」 大企業の春闘は軒並み満額回答、中には労組側の要求額に色をつけて回答する自民党スポンサー企業まで出て来る始末で、大企業の平均賃上げ率は昨年を上回る5%超を達成したそうです。中小企業も連合の芳野友子会長が、平均賃上げ率は2013年以降で最高の4.5%となる見込みだとドヤ顔で述べました。 そして、これらの状況を受け、日銀の植田和男総裁は3月19日、「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定目標が持続的、安定的に実現して行くことが見通せる状況に至った」と述べ、アベノミクスの成果捏造のために前任の黒田東彦総裁が意地になって続けて来たマイナス金利などの金融緩和政策を「解除する」と宣言しました。 しかし、実質賃金は相変わらず22カ月も連続で絶賛マイナス中ですし、植田総裁の言うような「賃金と物価の好循環」など、日本のどこにも見られません。そこで植田総裁の発言を再確認してみると「2%の物価安定目標が実現した」ではなく「2%の物価安定目標が実現して行くことが見通せる状況に至った」と言っていたのです。つまり、簡潔に言えば「見切り発車」というわけです。 事実、5%超の賃上げ率を達成したのは「日本を代表する大企業」だけですし、それも円安の恩恵を受けている輸出企業を中心とした話なのです。中小企業に至っては、連合に加盟する中小企業のうち「賃上げする」と回答したうちの約2割、777社の賃上げ率の平均が4.5%という話なのです。 ちなみに、城南信用金庫と取引のある東京都と神奈川県の中小零細企業811社に「今春の賃上げ」について質問した東京新聞の2月のアンケートでは、「賃上げする予定」が36.0%、「賃上げ予定なし」が30.9%、「まだ決めていない」が33.1%でした。そして「賃上げの予定なし」と回答した企業の多くが、その理由について「原材料高などで賃上げの原資がない」と回答しています。 本来、原材料費や燃料費や運送費などの高騰が続いた場合、そのぶん商品の価格を引き上げて利幅を守るのが商売の基本です。しかし、それができるのは大企業だけなのです。中小企業の多くは大企業の下請けであり、製品の納入先が大企業なのですから、とても値上げなど口にできません。「値上げなどしたら取引を打ち切られてしまう」「それどころか値下げしろと言われた」など、大手による「中小企業いじめ」の実体を吐露する人たちも少なくありません。 あたしはブライダル専門のヘアメイクですが、フリーランスなので、複数の事務所やプランナーや式場や撮影スタジオなどから仕事を回してもらっており、仕事に必要な化粧品や道具などはすべて自前です。そして、それらはもれなく原材料費の高騰により、新型コロナ前より価格が2割前後も引き上げられています。しかし、その分を賃金に上乗せなどしたら、ソッコーで仕事が回って来なくなるため、口が裂けても「来月から単価を10%引き上げます」などとは言えません。結局、物価高騰による実質賃金のマイナスは、自分でかぶるしかないのです。 これはあたしのような仕事に限ったことではなく、作家でも漫画家でもフリーランスはみんな同じです。自民党政権はインボイスなどで「フリーランスいじめ」に終始していますが、大人気の売れっ子作家でもない限り、自分の担当編集者に「物価高で取材費が増額したので来月から原稿料を上げてもらえませんか?」などと言える人はいないでしょう。そして、これと同じなのが、大企業の下請けとなっている中小企業や、孫請けとなっている零細企業なのです。 岸田文雄首相は3月22日、日本商工会議所の総会に出席して「今年の春闘労使交渉では昨年を上回る力強い賃上げの流れができつつある。この流れが広がるためには、中小企業、小規模事業者における賃上げが何よりも重要だ」と述べ、全国の中小零細企業に賃上げを要請しました。 しかし、大企業が毎年のように賃上げを実施し、中小企業でも何割かは賃上げを実施しているにも関わらず、現在まで22カ月も連続で実質賃金がマイナスというのは、それほどまでに物価高騰の波が収まらないからなのです。それなのに、原材料費の高騰に苦しんでいる中小零細企業に賃上げを要請するなんて、モノゴトの順序が逆だと思います。 そして、何よりもシャレにならないのが、岸田首相が全国の中小零細企業に賃上げを要請したのと同じ3月22日に、内閣府が発表した「社会意識に関する世論調査」の結果です。今の社会で不満や不安を感じている点を複数回答で尋ねた設問では、「経済的なゆとりと見通しが持てない」との回答が最多で、昨年同月の調査より0.7ポイントアップの63.2%となったのです。これは、2008年から始めた同様の調査で、過去最多の数字だそうです。 そして、ワースト2位の「子育てしにくい」は28.6%、3位の「若者が社会での自立を目指しにくい」は28.2%、4位の「女性が社会での活躍を目指しにくい」は26.2%、5位の「働きやすい環境が整っていない」は25.8%と、2位以下は横並びでした。こうして2位以下と比較してみると、ワースト1位の「経済的なゆとりと見通しが持てない」の63.2%が、いかに突出しているかが分かると思います。 また、今の日本で悪い方向へ向かっていると思う点を複数回答で尋ねた設問では、「物価」が69.4%でワースト1位でした。そして、2位の「国の財政」が58.4%、3位の「景気」が58.1%、4位の「経済力」が46.7%と、こちらは前の設問でワースト1位だった「経済的なゆとりと見通しが持てない」という回答を補填するような回答が上位を占めました。 この設問で「物価」がワースト1位となったのは2年連続で、内閣府の担当者は「物価高が続き、経済的なゆとりがないと感じている人が減少していないことが背景にあると思う」と述べています。そして、こうした世論調査の結果を内閣府が発表した当日に、岸田首相は、物価高に苦しむ全国の中小零細企業に賃上げを要請したのです。 百歩ゆずって、これが新聞やテレビなど民間の世論調査であれば「世論と政府とのギャップ」と理解することもできます。しかし、岸田首相は「内閣総理大臣」なのですよ?内閣総理大臣が自分の内閣の世論調査の結果を完全に無視し、すでに苦しみ続けている大多数の国民をさらに苦しめるような要請をするなんて、開いた口からエクトプラズムが流れ出て幽体離脱しちゃいそうです!

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