林田直樹の「よく聴く、よく観る、よく読む」2024年3月31日 Vol.436より
【音楽のことば】
「無限の時間に連なるような、音楽の庭をひとつだけ造りたい。自然には充分の敬意をはらって、しかも、謎と暗喩に充ちた、時間の庭園を築く。だがこれは、あるいは、不遜な野望かもしれない。それにまた、それが可能だという保証もない。一枚一枚の生命(いのち)の木の葉をかき集めて、火を点す。それは祈りのようなものだ」
(武満徹)
※出典:「武満徹 御代田の森のなかで」(浅間縄文ミュージアム)より
【このディスクが面白い】
●アルヴォ・ペルト「トラクトゥス」
トヌ・カリユステ指揮 エストニア・フィルハーモニー室内合唱団 タリン室内管弦楽団 他
UCCE-2106 ユニバーサルミュージック
https://www.universal-music.co.jp/arvo-part/products/ucce-2106/
https://amzn.to/3TI3aZZ
ECMレコード40周年記念を飾る作品としてリリースされたペルトの最新作。エストニア出身の作曲家アルヴォ・ペルト(1935-)の最大の理解者のひとりで、すぐれた合唱指揮者のトヌ・カリユステが、弦楽オーケストラと合唱の音色を融合させた美しい世界を展開している。
Apple Music ClassicalやAmazon Musicなどで聴くこともできるが、CDなら美しい装丁のブックレットや日本語に翻訳された解説文なども含めて、より深くペルトの世界に浸ることができる。
本作に収められている曲も演奏も、すべてペルトのファンにはこたえられない、透徹した敬虔な祈りの世界を体現している。合唱曲がメインだが、管弦楽曲もあり、なかでも2008年の作品「ジーズ・ワーズ…」(These Words…)は興味深い。
ヴォルフガング・ザンドナーとカイ・クトマンによる長文のライナーノートによると、このタイトルはシェイクスピア「ハムレット」第3幕の有名な独白「短剣の代わりに言葉でぐさりと刺す/舌が心を裏切るのだ」のことを指しており、守護天使が人間から守ろうとする邪悪と罪のことが念頭に置かれている。
この、言葉をもたない祈りの音楽が意味しているものとは、現代の私たちを取り巻いている言葉たちの恐ろしさなのだ。
そういうメッセージは、単に響きの雰囲気に浸るだけでは伝わってこない。だからこそ曲に添えられたこうした適切な解説は重要なのである。もちろん、国内盤CDでは合唱曲の歌詞対訳も全文掲載されている。
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