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【Vol.528】冷泉彰彦のプリンストン通信『「もしトラ」と日本政局を考える』

冷泉彰彦のプリンストン通信
現時点では、「もしトラ」問題をどう考えたらいいのか?  アメリカ大統領選は、ここへ来てトランプの支持にやや翳りが出てきているようです。原因としては、予備選が早々に一段落した中で、トランプの話題作りのネタが尽きているということが考えられます。一方で、バイデン陣営としては、イスラエルのネタニエフ政権による過剰なガザ攻撃には「同伴しない」という姿勢を見せたことで、若者の離反を防ぐ効果が、少しですが出始めているようです。  これに加えて、「第三極」のポジションに立っている、ロバート・ケネディ・ジュニア候補が、グーグル創業者の元妻であるニコル・シャナハン氏を副大統領候補に指名して、戦闘態勢を強化しました。陰謀論と環境を軸に独自の主張を展開する同候補は、バイデン票も食うでしょうがが、それ以上にトランプ票を食ってしまうという分析もあります。  そうではあるのですが、日本の今後を大きく左右する可能性を秘めた「もしトラ」問題については、やはり先手先手で検討を進める必要はあると思います。まず、これまで、この欄で議論してきた論点を確認することにします。 「最悪のシナリオは、トラ二次政権が日本の前に米韓同盟を切り捨ててしまい、そのために韓国では左派政権ができて北との連携を強化。事実上、対馬海峡が緊張の海になるという場合。このケースは、日本として安全確保のためには、主として中国に対して大きな妥協を迫られる」 「日米安保が破棄され在日米軍が撤退するにしても、韓国が西側に留まり、日韓がNATOやASEANと連携して西側の立場を維持できれば、東アジアのパワーバランスを確保できる可能性がある」 「一方で、トラ二次政権が日米同盟を維持しながら骨抜きを図る可能性もある。その場合に、相互防衛義務を課し、核の傘の提供を外すようだと厄介」  というのが、3つの論点です。いずれのシナリオも非常に難しい局面になりますが、最低限「核武装はせず、NPT体制を死守」「歴史修正は放棄して、戦後世界の優等生の立場を維持」というのは、ほぼ絶対条件になります。何故ならば、「歴史修正主義を掲げながら自主防衛や核武装に進む」というのは、そのまま日本の孤立を招くと同時に「仮想敵による一方的な開戦の大義」になってしまうからです。  安全保障というのは、文字通り「安全の保証」であり、とにかく日本の独立と領土の保全を維持してゆかねばなりません。その場合に、通常兵器と練度の高い兵力によって抑止力を確保することは必要です。また、仮に米国が超孤立主義に固執して全く役に立たない場合は、欧州もしくはASEAN、そして韓国の保守政権と連携して、東西のバランスを維持しなくてはなりません。  勿論、「もしトラ」というのはあくまで「もしも」であり、100%現実になるわけではありません。また、仮に11月にトランプが当選し、25年1月に就任したとしても、即座に日米同盟や米韓同盟を破壊するとは限りません。  ですが、現時点ではやはり「もしトラ」という事態を想定して、様々なシミュレーションを行うとともに、必要な準備はしておくべきと思います。特に、アメリカ以外の西側同盟との結束の確認というのは重要です。  まず、政治日程ということでは、4月10日の日米首脳会談があります。こちらは、ある意味で不思議なイベントになると思います。まず、現時点では、特に民主党のバイデン政権と日本の岸田政権の間には大きな対立点はありません。ですから、バイデンとしてはこの間、米国と協調して西側同盟の結束を守ってくれた岸田に対して謝意のような感じは持っていると思います。だからこその国賓級での招待ということです。  問題は岸田の側で、本来であれば「日米の結束」あるいは「両首脳の個人的信頼関係の強さ」をアピールして、支持率アップのための政治ショーにする予定だったと思います。ですが、昨今の政治情勢の中では、「自分がレイムダックなのに、大げさな晩餐会に呼ばれるのはおかしい」とか「国内が大変なのに元首気取りで晩餐会か」などと批判されるのがオチです。  もしかしたら、官邸が勘違いをして「岸田政権の成功を象徴するイベントだ」として、各メディアに晩餐会での「総理の晴れ姿」を大きく取り上げるように動くかもしれませんが、それは逆効果になる可能性があります。世論を甘く見てはいけません。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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