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No. 85 花といえば桜:桜花が春を彩る「花綵(かさい/はなづな)列島」

淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」
  • 2024/04/15
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いつもお読みいただきありがとうございます。 第85回目の淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」をお送りします。 季節外れの暑さが続き、桜前線急速北上中。 私の住む鎌倉市では先週が見ごろで、桜吹雪舞い散る中、葉桜になりつつありますが、まだ山桜はきれいに山を彩っています。 桜吹雪、花吹雪は日本に住む人々にとり、名残を惜しむ感傷と新しい始まりへの期待を感じさせる風物詩でしょう。 「地球ごと 消えてなくなれ 花吹雪」 俳人、「アウトロー俳句」とも称される新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」の家元、北大路 翼(*1)のパンキッシュな句も生成と消滅を感じさせます。 (*1)北大路 翼:https://tinyurl.com/mr2tcxuv 「久かたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらん」 土佐日記(*2)の作者で百人一首(*3)にも歌がある紀貫之(*4)のいとこの紀友則の有名な歌で古今和歌集(*5)にも収録されています。 桜が散ってしまうことへの美しい風情が浮かぶとともに、哀愁を感じさせ、逝く春への名残りを詠んでいます。 (*2)土佐日記:https://tinyurl.com/553c838y (*3)百人一首:https://tinyurl.com/ycyc2n96 (*4)紀貫之:https://tinyurl.com/5ay9c9xt (*5)古今和歌集:https://tinyurl.com/yer4yydf 今回は前回取り上げた日本列島の美称「花綵(かさい/はなづな)列島」(*6)の春を彩る桜について思いをはせていきたいと思います。 (*6)「花綵(かさい/はなづな)列島」:https://tinyurl.com/yjrmxnpy ******************* ◆まど・みちお作「さくらの はなびら」 ******************* 誰もが知っている童謡「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「一ねんせいになったら」などの作詞で知られる詩人のまど・みちお(*7)さんは、詩作の秘密を巡る至言の言葉を残しています。 「人間はなぜ詩を書くか。私は詩を書かないと死んでしまうというほどではありませんが、息の次に大事なものがあります。『言葉』でございます。そういうものがどうしても出てくるのです。」 桜を巡る今回のメールマガジンの最初に、まど・みちおさんの「さくらの はなびら」という深い余韻を残す名詩を紹介します。 (*7)まど・みちお:https://tinyurl.com/4v2a96wt ・・・・・・・・・・・ 「さくらの はなびら」まど・みちお えだを はなれて ひとひら さくらの はなびらが じめんに たどりついた いま おわったのだ そして はじまったのだ ひとつの ことが さくらに とって いや ちきゅうに とって うちゅうに とって あたりまえすぎる ひとつの ことが *かけがえのない ひとつの ことが ****************************** ◆「おわり」の「はじまり」ではなく、「おわり」は「はじまり」 ****************************** すべて、ひらがなで書かれているので、たおやかでやわらかい風情を感じさせます。 ひとひらの桜の花びらが静心なく大地に舞い散ることが、地球や宇宙の終焉と開闢にまで至るという詩的想像力にまず新鮮な驚きを覚えます。 無数の些細な、とるにたらない、しかし、それぞれにとってはかけがえのない一回限りの出来事が、繰り返される自然の営み、世界の消滅生成の秘密、真実を開示する本当に大事なことだと、鋭敏に感じとる「センスオブワンダー(自然などからある種の不思議さを感じ取る感性)」あふれる詩です。。 今地面に落ちた花びら、跡形もなく消えてしまいます。 しかし、来年もまた桜は花びらを散らします。 このことこそが、かけがえのない不思議な自然の恵みです。 こうした「不思議」は世界にあふれていて、世界は無限に存在しているのに、私たちは日々の忙しさに取り紛れて「当たり前」なこととして、見過ごしがちです。 現代を代表する哲学者マルクス・ガブリエル(*8)の代表作『なぜ世界は存在しないのか』(*9)の重要な一節を思い出します。 「たったひとつの世界なるものなど存在せず、むしろ無限に数多くのもろもろの世界だけが存在している。そして、それらもろもろの世界は、いかなる観点でも部分的には互いに独立しているし、また部分的には重なりあうこともある、・・。」 (*8)マルクス・ガブリエル:https://tinyurl.com/7s2bac8m (*9)『なぜ世界は存在しないのか』:https://tinyurl.com/2ww4r6dn 一つの世界が存在すると考えるのは幻想で、独立しつつ重なり合う無限に多くの世界が生成していくとする多元的認識論です。 繰り返しになりますが、ひとひらの桜の花びらが大地に舞い散ることで、一つの世界が終わると同時に新たな世界の始まりを迎えるという、循環する多元宇宙の不思議を、やさしい言葉で紡いだ心に響く大好きなまど・みちおさんの詩「さくらの はなびら」を紹介しました。 桜は古来この列島に住む人々の心に特別な深い感銘を与えてきました。 以下、「さくら」という名前の由来や語源についてみていきましょう。 ***************** ◆「さくら」という名前の由来や語源 ***************** 「さくら」という名前の由来や語源についてはとても多くの説があり、「これが唯一の正しい説」というものはありません。

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