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No.86 「山川草木悉皆仏性」という日本仏教固有の自然賛歌の思想

淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」
  • 2024/04/22
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いつもお読みいただきありがとうございます。 第86回目の淺野幸彦メールマガジン「リベラルアーツ事始め」をお送りします。 「山川草木悉有仏性」という、日本仏教に顕著な考え方があります。 「草木国土悉皆成仏」などとも言われますが、簡単に言うと「人間や動物だけではなく、山や川、植物などのすべての自然界に存在するものが、成仏(*1)できる性質、「仏性」(*2)を有しているという考え方です。 広く一般に知られている「山川草木悉皆成仏」はほぼ同じ意味の言葉で、哲学者の梅原猛氏がさかんに用いて有名になり、さらに1986年に中曽根康弘首相(当時)が施政方針演説中に用いたことがきっかけで、広く世間に知られるようになりました。 この言葉は、仏教の慈悲の考え方や、自然賛歌、すべての自然界に存在するモノ・コトと人間とのつながりを示しています。 (*1) 成仏https://tinyurl.com/739y2are (*2) 仏性https://tinyurl.com/4xktjffm ******************** ◆人形作家、写真家の石塚公昭さん制作中の 禅宗の高僧の方たちの塑像と写真 ******************** かつての同僚の岩林誠(*3)さんからご紹介いただいた人形作家、写真家の石塚公昭(*4)さんが、以下挙げるような禅宗(*5)ゆかりの高僧の塑像と写真を現在制作中です。 (*3)岩林誠: https://note.com/iwabayashi (*4)石塚公昭:https://tinyurl.com/u9jrdw7c (*5)禅宗:https://tinyurl.com/4zs3fdx7 ・蘭渓道隆(大覚禅師)/らんけいどうりゅう:https://tinyurl.com/yey37yza 中国南宋(*6)からの渡来し、鎌倉五山(*7)第一位「臨済宗 (*8)建長寺派 大本山 建長寺(*9)」の開山(初代住職)に就かれた方です。 (*6)南宋:https://tinyurl.com/ua7w36wx (*7)鎌倉五山:https://tinyurl.com/yyfxwdxn (*8)臨済宗:https://tinyurl.com/s4yv27ek (*9)建長寺:https://tinyurl.com/aypr6dm8 ・無学祖元(仏光国師)/むがくそげん:https://tinyurl.com/3tf38h2b 鎌倉五山第二位「臨済宗 円覚寺派 大本山 円覚寺(*10)」の開山(初代住職)に中国南宋から迎えられた方です。 (*10)円覚寺:https://tinyurl.com/27ekznsu ・臨済義玄(慧照禅師)/りんざい ぎげん:https://tinyurl.com/yx6tzyds 中国の唐(*11)代の禅僧で、臨済宗の開祖です。 (*11)唐代:https://tinyurl.com/4xrd4sr8 ・達磨大師(だるまだいし):https://tinyurl.com/mr79987h 中国禅宗の開祖とされているインド人仏教僧です。 「ダルマ」というのは、サンスクリット語で「法」(*15)を表す言葉です。 (*12)「法」:https://tinyurl.com/bdfhhcvc ・寒山拾得(かんざんじっとく):https://tinyurl.com/93mbwbwn 中国江の臨済宗の寺・寒山寺 (*13)に伝わる風狂の僧、寒山(*14)と拾得(*15)の伝承。またこれを題材とした以下の芸術・文芸・芸能作品のことです。 森鴎外の短編小説『寒山拾得』(*16)も有名ですね。 (*13)寒山寺:https://tinyurl.com/mr28j2vs (*14)寒山:https://tinyurl.com/2ueftuhz (*15)拾得:https://tinyurl.com/y2tx33ec (*16)森鴎外『寒山拾得』https://tinyurl.com/73fvtse7 ・一休宗純(いっきゅうそうじゅん):https://tinyurl.com/muepjb4u 室町時代の臨済宗大徳寺(*17)派の僧、詩人です。 一休とんち話など、説話のモデルとしてもよく知られていますね。 (*17)大徳寺:https://tinyurl.com/2xhh4dy7 今年の秋ごろになると思いますが、建長寺で展示できるよう、 「お寺を社会に開かれ必要とされる場所に」をモットーに活動を続けられている敬愛する大本山建長寺派の元・宗務総長の高井正俊(*18)和尚さまほか建長寺の和尚さまに、私の方からお願いして快諾いただきました。 今秋ごろに建長寺で展示を予定していますが、詳細が決まりましたらお知らせいたしますので、是非、ご覧になっていただけるとありがたいです。 (*18) 高井正俊:https://tinyurl.com/yc6esdb4 ***************** ◆石塚公昭さん “己の中に仏は在る” ***************** その石塚公昭さんのブログ「明日できること今日はせず」(*19)に、最近以下のような一文があります。 「一昨年、作家活動40周年を迎え、禅宗的モチーフに至ったというのは、昔から“人間も草木同様自然物。肝心な物はあらかじめ備わっている”と考えて来たことと、“己の中に仏は在る”という禅の教えが結びついたのかもしれない。」 この一文の“人間も草木同様自然物、肝心な物はあらかじめ備わっている”という考え方は、日本仏教の特徴「山川草木悉皆仏性」あるいは「草木国土悉皆成仏」に通じますと、彼に返信しました。 (*19)石塚公昭ブログ:https://tinyurl.com/mr4a3t49 ********************* ◆本来、仏性を有しているのは有情の存在だけ ********************* 山も川も草も木、ましてや国土や無機物などの心や意識を持っていない存在、自らの意思で修行できない存在であっても仏に成れるという思想は、本来の仏教にはありません。 もともと仏教発祥の地インドでは、成仏できるのは「有情」あるいは「衆生」と呼ばれる「心や感覚や意思を持った生き物」、すなわち人間と動物に限るとされていました。 インドにおける初期仏教や大乗仏教(*20)の経典『涅槃經(ねはんぎょう)』(*21)に出てくる「一切衆生 悉有佛性(すべての衆生はことごとく仏になれる本質を持っている)」の「衆生」は生き物でも「有情」(意識ある生き物)のみを指しています。草木、ましてや国土などに「仏性」はないとされています。 (*20)大乗仏教:https://tinyurl.com/yck4h4mj (*21)『涅槃經』:https://tinyurl.com/mte65msz それが大乗仏教、中国の三論宗(*22)や華厳宗(*23)において、「草木成仏」という思想が生まれて、植物にも仏がやどっていると考えられるようになったのだそうです。 例えば、植物は光を感じ(視覚)、蔓が巻き付き(触覚)成長していくことを考えれば、これを無感覚な存在とみなすことはできません。 さらに成長への意思らしきものも感じられます。 しかしまだ動物や植物以外の存在の仏性、あるいは仏がやどっているとは考えられていません。 (*22)三論宗:https://tinyurl.com/yf62h765 (*23)華厳宗:https://tinyurl.com/y4s2mjrc ************* ◆道元「山川草木悉有仏性」 ************* 前出した『涅槃經』に出てくる「一切衆生 悉有佛性」を曹洞宗(*24)の開祖、道元禅師(*25)(1200-1253)が解釈し、「山川草木悉有仏性(山も川も草も木も、ことごとく仏になる本質を有している)」としました。 中国の植物も成仏できるという「草木成仏」という思想を生命以外のものにまで広げ、山や川、無機物である「国土」までもが成仏できるのだという考え「自然界の全てには仏性が有る」と説かれたのです。 (*24)曹洞宗:https://tinyurl.com/4fu4rvev (*25)道元禅師:https://tinyurl.com/3u4vpc5w なお、「山川草木悉有仏性」の元となった「草木国土悉皆成仏」という言葉を、日本で最初に唱えたのは空海(*26)だと伝えられています。 (*26)空海:https://tinyurl.com/5ct29kmz そして、「ありとあらゆるものが仏性を備えている」という考えが日本人の中に広がっていったのですが、このような思想を受け入れる素地がもともと日本人にはありました。 アニミズム(*27)をベースとした「八百万(やおよろず)の神」(*28)、「依り代」(*29)、「付喪神(つくもがみ)」(*30)などをリアルに感じとる心性です。 以下それらについて簡単に見ていきましょう。

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