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【Vol.532】冷泉彰彦のプリンストン通信『911から22年半、アメリカの迷走』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「税務署員が育休中に転売で処分、報道への疑問」  福島県内の税務署に勤務する財務事務官が、育児休業中だった2022年8月からの1年半に、自動車などの転売を繰り返していました。このために、国家公務員法に定める「兼業の禁止」に違反したこととなり、懲戒処分になったそうです。 このニュース、どこかモヤモヤするのですが、どうしてモヤモヤするのかというと、多くの要素が混じり合っているからだと思います。ならば、少し突っ込んで考えながら、各要素に分解してみたいと思います。  1つ目は処分の方法です。所轄の仙台国税局は「停職1ヶ月」という懲戒処分にしたそうです。ですが、その事務官は同日付で辞職したと伝えられています。ということは、自己都合退職にして退職金を払ったのか、あるいは再雇用を考えた温情なのか、かなり曖昧です。  そこで考えられるのは、停職にしたが、本人がその処分を恥じて辞職したというのではなく、「辞職を条件に停職1ヶ月にするという取引」があった可能性です。となれば、どうしても天下りとか、温情めいたものを感じてしまいます。その辺はどうなのかハッキリしてもらいたいと思います。  2つ目は、育休中の問題ということです。育休なのに育児をしないで、商売をしていたというのは、どの程度悪質なのか、良くわかりません。世間的な感情としては、育休のくせに育児を不真面目にやっているのなら、懲罰したくなるのは分かります。  例えばですが、配偶者はフルタイムで働き、本人は育児を100%やりながら、ネットでオークションをやっていたというのなら、罪は薄いようにも思います。育休中は育児に専念してもらいたいのは感情論として私も賛同しますが、制度的に「育休中はこれをやれ」とか「やるな」という設計にするのは難しいと思います。ならば、曖昧な根拠で罰するような報道をするのには違和感を感じます。  3つ目は、稼いだ金額です。報道によれば、自動車62台と携帯電話4台を転売し、約2億円を売り上げたというのです。2億といえば、そんな巨額なら兼業を咎められても当然とか、だったら仕事をやめて専業になればと思ってしまいます。ですが、この2億は扱い高であり、利益ではありません。  仮に差益がものすごく薄くて2%だったとしたら400万ですし、仮に売れないケース、赤字の取引や在庫処分などがあれば、利益はもっと低いかもしれません。その辺を無視して、いかにも悪いヤツのように「2億円」だと報道するのも困惑させられます。  4つ目は、冷静に考えると税務官が、ネットオークションを大々的にやっていたというのは、社会通念上、確かに違和感があるのは事実です。ネットオークションでの差益というのは、往々にして申告漏れをしがちというイメージがあります。またそのような販売に絡む、中間業者や最終的な販社なども公明正大に税金を払っているのかというと、多少信頼が薄い面があります。  だとしたら、税務官という立場の人は、商売として繰り返し取引するのは論外として、一回でも怪しい業者から買うとか、売るとかいうのも止めて欲しいという感じもします。また、そのようにプライバシーを縛るのであれば、悪事に手を染めないように税務官としての不自由さに見合う手当とか給料を出して、優秀な人材を入れないと困ります。無能で乱暴で公私混同するような税務官がいると、困るのは納税者だからです。  5つ目は、転売で稼いだ収入は生活費などに使っていたとこの元税務官は説明していたそうです。理由としては、育児休業中は無給のため、共済組合からの給付金があったが、「大体半分ぐらいに収入が落ちている」状態だったというのです。仮に、この人が20代で配偶者が無業か、あるいは非正規などで収入が少なかったとしたら、これは大変です。  20代の年収が育休で半減する、しかも配偶者の収入も少ないというのなら、途端に子育ては無理ゲーになります。そこを考えると、このケースの場合に情状酌量の余地があるし、本当に公務員の場合はそんな感じであるのなら、少子化は加速するだけだと思います。(続く)

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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